ローマというシステムの強さ

 ついに「ローマ人の物語」を読み始めた。最近はてきとーなBOOKOFFに入ると、1〜5巻くらいまではそれぞれ100円で手に入る。以降の巻はなかなか難しいっすね。とりあえず、プロローグ的な「ローマは一日にして成らず」(1,2巻)と「ハンニバル戦記」(3〜5巻)を読む。プロローグはともかく、ハンニバル戦記はめちゃくちゃオモシロイなこれ。

ローマ人の物語 (1) ― ローマは一日にして成らず(上) (新潮文庫)

ローマ人の物語 (1) ― ローマは一日にして成らず(上) (新潮文庫)

 以前、伴読部で東インド会社の本を読んだことがあって、あのとき、「征服よりも平和を評価しています」という書簡が印象に残っている。つまり、先入観としてもっていた欧米の貿易会社=帝国主義を指向していたなんか悪いやつら、という図式はどっか歪んだ歴史観なのであって、彼らは要するに金儲けしたいだけだった、ていうことなんだよね。でも、その金儲けの仕組みは植民地支配と結びついていて、その軋轢は世界大戦へと向かっていく、という、「仕組み」が暴走してしまいますよ、というのが近代史の大きな流れと思う。さらに現代にいくと、もう仕組みは「壁」とでも言うべき、硬直した、変わらないものになってしまっています、というのが「壁と卵の現代中国論」だった
 「仕組み」が巨大化して複雑化すればするほど、コントロールするのは難しくなるっていうのはその通りなんだけど、だからと言ってそれを破棄すべきだ!というのは多分違うはず。それを確認するには、仕組みのある世界と、そうでない世界を比較するしかない。でも、現代では仕組みからフリーな世界というのは、フィクションの中と緊急事態にしか存在しない。ところが賢者は歴史に学ぶべきであって、歴史を紐解けば、見事な仕組みを組んだ国と、人に頼った国というのは、明確な違いが出ている、んじゃないかなあと思っている。いや、世界史はよく知らないけども。
 今回ローマの歴史を見てみたけど、すごくシステマティックな国だとわかる。すべての道はローマに通じる。この一言だけ考えてみても、これはどういうことかっていうと、道は軍隊の輸送を高速にするためのものであって、それと同時に地方のインフラ整備も兼ねている。こういうハードの仕組みと、ソフトの仕組み、つまり他の民族を単純に征服・同化するんじゃなくて、同盟関係に近いものを築いていく、というのがきれいにマッチしてるんだよね。しかも、ギリシャの文字や文化が優れているとなれば、それを積極的に摂取していくところとか、柔軟性も高い。
 で、ここでカエサルっていう、この辺の仕組みについて考え尽くした人間が、そのセキュリティホールをつくようにやってくるわけですよ。ローマは、ローマが強いんじゃない。ローマが他の民族、他の国家と築いているネットワークそのものが、ローマの強みなんだ。だから、それを壊してやればいい、と。キレキレです。
 この戦略は大成功で、イタリア本土はボロボロになるけど、でも、それでも結局ローマは倒れなかったんだよなあ。これが、いかに「仕組み」というものが強いか、ということだと思う。まだ読み進めないとわからないけど、おそらくローマは、この「ローマと他国のネットワーク」という戦略を特に変更せずに発展していくのだろう。カエサルみたいな、怖ろしい天才が現れて、本土を破壊するような戦争があっても、仕組みを変えずに国家を立て直し、繁栄を続ける。長い目で見れば、1人の英雄よりも、シンプルな仕組みが強い、というのは、すでにこの時代に、わかっていたことなのだ。
 だから、現代においても、「仕組み」がいくら問題を引き起こしているからと言って、それを解体してしまうとか、贈与経済とか昔の淘汰されたはずの型に戻す、というのはあり得ないんであって、まあやり方としてはサブシステムを追加していくようなものしかないんじゃないかな、と思っている。この辺の、「うまく仕組みを再構築するやり方」については、「里山資本主義」を読み始めたので、その辺でもう一度書いてみよう。