エネルギー問題入門
オアゾ丸善が謎の大プッシュだったので手に取りました。「エネルギー問題入門」というタイトルではあるが、読み進めると、テーマとしては「アメリカのエネルギー問題」であり、「政策決定者としてどうふるまうか」がクリティカルクエッションになっていることがわかる。ふーん、と思って原題を見てみると、"Energy for Future President"で、なるほど。こっちのほうが良かったのでは。売れないと思うけど。以下、メモ型記述。
- 作者: リチャード・A.ムラー,Richard A. Muller,二階堂行彦
- 出版社/メーカー: 楽工社
- 発売日: 2014/07/02
- メディア: 単行本
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エネルギー安全保障と気候変動
・本書で繰り返し語られるのが、政策決定の際に考慮しなければいけないのが、エネルギー安全保障だと気候変動、ということ。あるエネルギー問題について、両者が矛盾することはよくある。
・一人あたりGDPと一人あたり一次エネルギー消費量には相関関係があるので、地球温暖化の解決には、中国をどうするか?が肝心であり、先進国のみのエネルギー対策には限界がある。
・理論的には例えば、中国に技術移転することで、石炭利用→天然ガス利用へとシフトさせることで、CO2排出量は減少するはず。
・ただ、こうした対策は常に国家間利害調整の影響を受ける。
・石油価格の変動により、採掘可能な石油埋蔵量は増減する。採掘コスト<石油価格となってはじめて「採掘可能」となるため。
・石油のほうが石炭よりも低コストで利用できるのは、石油用のインフラが広く普及しているからに過ぎない(パイプライン、自動車など)。もちろん、石油のほうが運搬しやすい、残滓が発生しないなどの強みはあるが、石油用のインフラがなければ、石油を効率的に利用できない。同様に、石炭用のインフラがなければ、石炭を効率的に利用できない。
・このため、中東は「儲けが出るから」というスキームとは別に、「石油価格が下がり過ぎ、各国のインフラが石炭用にシフトすると、石油の利用がそもそも非効率になり、競争力を持ちにくくなる」ことを懸念している。
・シェールオイル・シェールガスは米国のエネルギー安全保障の要。中東からのエネルギー供給が途絶えた場合でも、軍隊を動かすことができるため。
原子力発電について
・原子炉が原子爆弾のように爆発することは原理上あり得ない。(低濃縮ウランと高濃縮ウラン)
・ウラニウムの枯渇には、現行使用で9000年程度かかるとされている。
・核廃棄物については、稼働停止後100年後に、「10%の廃棄物が漏洩する可能性が10%ある貯蔵システム」に貯蔵することで、地中にウラニウムが貯蔵されていた時と同程度の安全性となる。
・本書ではこれをもって、技術的には核廃棄物問題は解決済みとしているが、これを現実に適用すると、100年という期間が必要であること、例えば日本ではウランが地下にまとまって自然存在している箇所はそう多くない(鉱山があったのは、岡山県人形峠、福島県石川くらい?)ことを考えると「技術的に解決」はかなり勇み足。
・地下から採掘した直後のウランの放射能比を1とすると、原子炉停止後100年後は、この放射能比が100となる。「10%の廃棄物が漏洩する可能性が10%ある貯蔵システム」なら100*0.1*0.1=1.00としているから同程度と言いたいのだろうけど、これでは、言い方を変えると「漏洩の可能性は10%あり、その際は最大で採掘直後の100倍の放射能比となる」と言っているに等しく、確かにリスクの掛け算としては正しいのだろうけど、ウラン鉱山の年間被曝量は64〜90ミリシーベルトだから、漏洩時は6400〜9600ミリシーベルトなので、ふつうに被曝して死に至るレベルですよ。距離減衰率とかわからないけど。