今年読んでよかった本 in 2014

毎年恒例、今年読んでよかった本をご紹介。ペースは落ちたと思っているけど、志向している通り、厚みのある読書ができていると思う。大塚英志柳田國男入門とか、犬の伊勢参りなんかは、これまでの積み重ねがあってこそ面白く読めたし、南米文学もいくつか読み進めることができた。まあ、今更ではあるけど、量より質であると心から思う次第。

今年読んでよかった本 in 2014

密林の語り部 (岩波文庫)

密林の語り部 (岩波文庫)

人間にとって、「物語」がどういう存在なのかがよくわかる。物語とは、娯楽ではない。物語とは、歴史ではない。物語とは、人と人を繋ぐものだ。共通の物語を持つ人々は繋がることができる。例えば、日本人にとって、東日本大震災は物語である。東京オリンピックは物語である。東京大空襲は物語である。このように言えば、誤解を招きやすいけれど、いくらか理解しやすい。必ずしも体験として共有する必要はない。むしろ、物語として共有することこそ必要だ。そうすれば、個人を越えて、仲間内を越えて成立するものがある。別に、そうして団結する必要がある、というようなナショナリズム的なことを言っているのではなくて、そもそも、物語にはそういう力があるのであって、多くの人に、時代を越えて共有されるような強度を持つ物語はこれからますます貴重になるだろうと思う。
http://d.hatena.ne.jp/ast15/20140406/p1
笹まくら (新潮文庫)

笹まくら (新潮文庫)

そうした「物語」の磁場は強いので、一人の人間が紡いだ物語は容易に取り込まれてしまう。「笹まくら」も、そういう不当な評価をされているだろう。これは、戦争モノという評価をされるべきではない。もっと人間本来の性質を描いた物語である。考える必要のないことを考えてしまったり、トラウマのようにいつでもその物事を強迫的に思い出してしまったり、そういう「苛まれる」という感情を素晴らしく表現した物語として、僕は評価している。
http://d.hatena.ne.jp/ast15/20140503/p1
「笹まくら」は戦争を描いたからすごいのではなく、もっと普遍的な価値があると言える。しかし、「タタール人の砂漠」は更にその上をいく。時代が求めていそうなテーマをほっぽり出して、現代にも通用する普遍性の高い物語を提示している。機を待ち続ける、ということは、いかに人を埃まみれにしてしまうものか。今はそのイベントが起こるまでの準備期間と自分に言い聞かせ続け、しかし、そのイベントは起こらず焦り、まだこれからだ、と言い続ける人生。そのなかで、人間がどう変わってしまうのか。変わるはずのないと信じていた思いが、時間という大きな力の前でいかに無力であるか。
http://d.hatena.ne.jp/ast15/20141009/p1
犬の伊勢参り (平凡社新書)

犬の伊勢参り (平凡社新書)

なぜ犬の伊勢参りが成立するのか?まあ、正直、本当にこの仮説が正しいかはわかんない。わかんないけど、とにかく面白い。里山ならぬ里犬の存在。やっぱり、現代はいろいろなものが「所有」されているけど、昔はもっと、いろいろなものがパブリックな存在だったはずであり、そういう傾向については、まあ、たぶんそうなんだろうな、と思う。それによって、犬の伊勢参りという、あり得ない現象が成立し得てしまうのだ。
http://d.hatena.ne.jp/ast15/20140323/p1
岡本太郎の宇宙」シリーズ最終巻。一応、僕のなかでは、岡本太郎については、一定の決着をみた。僕が岡本太郎に興味を持ったのは、どちらかと言うと、自己啓発的な入り口だった。「自分の中に毒を持て」みたいな文庫。今ではふつうにシュルレアリスムとか好きです、とか言うけど、当時はコンテンツとしてはなにも知らなかった。それが、出口としては、レヴィ・ストロースみたいな文化人類学の方向になった。これは、岡本太郎の影響ではなくて、まったく違うところからスタートして、同じ方向を指向していたということなんだろうな、と思う。人間の根源的なものを求めると、絶対、民族ごとの文化の違いとか、そういうところへ目が向かざるを得ないということなんだろう。
http://d.hatena.ne.jp/ast15/20140109/p1
読む予定のまったくなかった本だけど、出会ってよかったなーと思った一冊。壮大なロマンチスト、強大な文学の磁場、そういう存在だと思っていた柳田國男が、一方で、強烈に社会に対する意志を持ち、実践的な人間だったと気づいたときの驚愕。もう一度、柳田國男とその周辺を学んでいきたい。ロマンチストでありながら、最後まで実践的だった人間について
http://d.hatena.ne.jp/ast15/20141025/p1

ブレーメン2 第1巻 (白泉社文庫 か 1-14)

ブレーメン2 第1巻 (白泉社文庫 か 1-14)

番外編として、マンガ部門。えっと、これ、少女漫画なんだけど、ちゃんとSFしてる。動物が遺伝子操作を受けて、人間と同じように知能が発達して、人間と共に仕事している、っていう設定なんだけど、かなり重い話を持ってくる。人種差別があったように、動物差別もあって、けっこう、ひどい目に遭わされたりする。するんだけれども、それを「重く」感じないのは、キャラクターがほのぼのしていることと、主人公が明るい(アホみたいに明るい、という意味ではなく、ちゃんと筋が通っていて前向き、くらいの意味)こと、そして「弱い」キャラクターも状況に対して何もできなくても、然るべき態度でいる、ということ。うーん、白泉社のMELODYって、パタリロ!とか大奥とか、よくわからん作品を連載してるよねぇ……



以上、7冊。こうして書いてみると、やっぱり僕は、コミュニティがどういう情報をもとに連携しているかに興味があるようだ。直接的なコミュニケーションで人と人が繋がっていることはアタリマエなんだけど、実は「連携」は直接的なコミュニケーションだけではなくて、例えば、人→物語→人とか、人→景観→人とか、人→社会→人とか、そういうコミュニケーションパスが実はあるはずで、そういうものになぜか興味があるっぽい。この辺は以降も深めていきたいテーマ。来年は、本丸レヴィ・ストロースを攻略したいと思う。イザベラ・バードの中国旅行記AMAZONツンドクになってしまっているので、これも読みたい。あとは、アジア圏の歴史と政治にも興味があるこの頃です。