砂の女

砂の女」(安部公房)読了。
砂の描き方が秀逸。

砂の女 (新潮文庫)

砂の女 (新潮文庫)

 以下、感想など。ネタばれあり。砂丘の穴に住む女は、男を留めようとする。男はその穴に閉じ込められ、自由を求める。だが、男が暮らしてきた社会と、砂丘に開いた穴の中とでなにが違うというのか?穴の中も、男のいた社会も、脱出不可な世界という点で、何も違いはない。男の求めた自由は、砂の中にも、もとの社会にも、ない。そもそも、男が砂丘に訪れた動機も、穴の中から抜け出ようとする行為に近い。

流動する砂の姿を心に描きながら、彼はときおり、
自分自身が流動し始めているような錯覚にとらわれさえするのだった。

 彼はこう思っていたようだが、それは錯覚にすぎなかった。やがて妥協し、本来求めていたものとは違う矮小な「自由」を発見し、こうつぶやく。

逃げるてだては、またその翌日にでも考えればいいことである。

 男があり得ない「脱出」を諦めれば、物語は幕を閉じるほかない。穴に落ちた男のあり方が、人間の本来的な、社会に対するあり方なのかもしれない。