災害がほんとうに襲った時
「災害がほんとうに襲った時」(中井久夫)読了。
災害時のロジスティクスを支えるのは、非災害時における人と人との信頼関係である。
- 作者: 中井久夫
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2011/04/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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災害が起きた直後は、それどころではない。生命の危機感が脳を刺激し、一種の興奮状態となる。そのような状況下において、少なくとも日本人は毅然とした態度をとり、整然とした行動をとれる。
しかし残念ながら、ココロでは腹は満たされない。そのような状況下では、ロジスティクス、すなわち全体最適化を指向する物流が、そのための人員のコントロールが、社会の安定性を左右する。
本書では失敗例を取りあげることが少なく、どちらかと言えば、「よかったこと」にスポットライトを当てていた感がある。しかしそれでも、「良い事例」は常に信頼ある人物によって動いている。信頼関係というのが、どのようにして築かれるか、といえばそれは、
しかし神戸のホームレスは市民との間に暗黙の交感がある。働かない者を排除する気風はない。かつてある盛り場の「ホームレスを取り締まれ」という投書に対して「そういう人が少しはおられるのが街というものではないでしょうか」
著者と同様、僕もこれには感嘆した。こういった精神が、人と人との信頼性を創り上げていく。そうしてできた信頼は、ロジスティクスを動かそうとしたときに、大きな力を発揮するのだ。
笑ってしまうくらいアタリマエだが、モノは即物的である。だからこそ、余剰があるときに、人と人との信頼関係を充実させておかなければならない。それが、災害に対する、最強のリスクヘッジとなるのだから。
本書の切り口は、精神科医としての災害記録というものだけでなく、街の物価の話から、街路樹の火災低減効果まで、極めて多岐にわたる。本書は下記サイトで無償公開されているので、ぜひ著者の多様な洞察に触れてみることをお勧めする。
※本書は、本が好き!経由で、みすず書房様から献本頂きました。ありがとうございます。