ストーリーとしての競争戦略

「ストーリーとしての競争戦略」(楠木建)読了。
静止画で切り取った戦略ではなく、動画としての流れのある戦略。

 今年の春くらいからちびちび読み続け、さきほど読み終わった。これは、面白い!そもそもなんで「ストーリー」に興味を持ったか、というと、面白さの起源が「ストーリー」にあるという予感があったからだ。
 コンサルのグループディスカッションでのこと。ありきたりなフレームワークを使って出てきたアウトプットは、どこかの対策本で見たような凡庸な内容。卒論生の研究プレゼンを見ていたときのこと。確かに何をやったかはよく分かるが、それがどういう文脈にあるのかはまったく見えず、なにも面白くない。
 反対に、面白いアウトプットというのは、常に「ストーリー」を押さえている。これをやるとこうなって、こういう文脈で力を発揮する、という力学がしっかりしていて、戦略として光るものがある。そう考えていた僕にとって、新刊台に並んでいた本書のタイトルは魅力的に映った。

目次
第1章 戦略は「ストーリー」
第2章 競争戦略の基本論理
第3章 静止画から動画へ
第4章 始まりはコンセプト
第5章 「キラーパス」を組み込む
第6章 戦略ストーリーを読解する
第7章 戦略ストーリーの「骨法10カ条」

ストーリーとは何ではないか?

 何かを明らかにするとき、それが何でないか?というアプローチはドラッカーもよくやっていた。とりわけ、言葉が一人歩きを始め、本質を見失い始めているとき、誤解を生みやすい考えであるときに有効である。本書も、ストーリーが何でないかを説明する。
 ストーリーはアクションリストではない。法則ではない。テンプレートではない。ベストプラクティスではない。シミュレーションではない。ゲームではない。一見してわかるものもあるが、そうでないものもある。詳細は本書に目を通していただきたい。
 著者はストーリーの本質を「つなげる」ことだと言う。ばらばらの打ち手ではなく、ある打ち手が全体の文脈のなかでどのような意味をもつのか、ということにこだわり、打ち手がなにを動かし、それがどんなことを起こし、それがどのような結果につながるのか、という流れをストーリーと呼ぶのである。

効果的なストーリーをつくるには?

 で、それはどうやってつくるの?という疑問が湧くことになるが、親切にも本書の最後に、骨法10ヶ条が載っている。これを見てみよう。

1.エンディングから考える
2.「普通の人々」の本性を直視する
3.悲観主義で論理を詰める
4.物事が起こる順序にこだわる
5.過去から未来を構想する
6.失敗を避けようとしない
7.「賢者の盲点」を衝く
8.競合他社に対してオープンに構える
9.抽象化で本質をつかむ
10.思わず人に話したくなる話をする

 ……ふつーだ。あまりにもふつー。なんか、これだけ見ると、どこの馬の骨ともつかないビジネス書にも書いてありそうだ。しかし、この10ヶ条にも、ストーリーがある。つまり、これらは、戦略上効果的なストーリーを組み上げるというストーリーで見たときに、初めて意味をもつ10ヶ条なのである。個々の要素には意味がないのだ。
 また、僕は抽象的な内容ばかり書いてしまったが、本書はエピソードの宝庫である。5章の『「キラーパス」を組み込む』では、「第三の場所」を提供するスタバ、禁じ手の「標準化」で成功したマブチ、あえてリアルな物流に拘ったアマゾンなど、ストーリーをしっかりと見据えて成功した事例には事欠かない。
 社会人であれば常識のようなエピソードなのかもしれないが、そうした戦略のケースを知らない僕のような読者にとっては、それだけで興味深く読める。
 

切実さと面白さ

 戦略の神髄は、思わず人に話したくなる面白いストーリーにある。そうしたコンセプトで書かれた本書であるが、面白いだけでは、情熱が長続きしないという。多くの読者は、自己啓発的な最後の節「一番大切なこと」を読み飛ばしてしまうのだろうが(というか、ビジネス書はそのように読んで正しいものと思う)、僕はそこで、「切実さ」というキーワードに出会った。

「切実さ」と「面白さ」とは少し違います。

この一行で十分であった。ジョブ(インターン)をやっていて、まわりが「おもしろい」と言っていたときの違和感はこれか!と思った。確かに面白いのであるが、なにか足りない、そう思っていた。言語化できない不足感を、僕は興味のあるコンテンツの不在に由来すると考えていたが、どうやらそうではなかったようだ。
 社会に対する「構え」というか、社会と向き合っているのだ、という実感のようなもの、そこに由来する、自身の「切実さ」。これを欲していたのだ。このことに気づかせてくれた。まさか、こんなところで見つけることになるとは思わなかった。興味のあるものには、手を出してみるものだ。