別府行ってきた

去年は北の地獄へ行ったので、今年は南の地獄へ行ってみたのです。

天国と地獄とではどちらが好きか、ということを尋ねられたら、迷わず「地獄」と答える。天国や地獄を見る機会はなかなかないのだけど、例えば本だったり、神話だったり、宗教画、歴史的な建築を見ると、よく天国と地獄が描かれている。けど、人の描く天国というのはとても退屈だ。幸せなのかもしれないが、単調で画一的、みなが同じことをしている。これに対し、地獄の壮絶な面白さといったらない。アンコールワットの壁画を見たときも思ったことだけど、針山、血の池、抜舌、毒蛇、鋸解、呑火食炭などなど、多様で個性的。人生、選ぶなら地獄しかないね。

というわけで(?)別府は鉄輪温泉(かんなわおんせん)。もうもうと立ち昇る温泉の湯気。アスファルトの隙間からでも蒸気が立ち上っているのは、まさに地獄。いいなあ。別府を観光地に仕立てあげたのは、油屋熊八という実業家。こんなポーズのブロンズ像はなかなかないよね。彫刻の製作者、辻畑隆子によると、天国から舞い降りた熊八が「やあ!」と呼びかけているイメージ、らしい。なるほ……ど?かなりぶっ飛んでいた人物なようで、観光地の説明をする添乗員、いわゆる「バスガイド」を始めたのは、熊八なのだとか。

地獄のいきものその1。こげな怪獣がいるとは、地獄とは恐ろしかとこね。地獄巡りチケットを購入すると、ぜんぶで8つの地獄を巡ることができる。このワニは鬼地獄のぬし様。ワニワニパニック状態。

かまど地獄。「地獄」には高温の湯がプールされているが、本来、それらは見世物ではなく、熱すぎる温泉を、人間が入れるように冷ますためのものだそうだ。湧水地の溜池に、温度を稲に適した水温にするのと、ちょうど逆の効果。こういう、ルーツとして、もともとどういう機能を持っていたか、という話はけっこう好きです。

地獄のいきものその2。こげな怪獣がいるとは、地獄とは恐ろしかとこね。このカバは山地獄のぬし様。ワニ園もあって、動物園もあるし、温泉に足湯。地獄はなんていいところなんだ!……あれ?

地獄のいきものその3。

ゾウのえさをいつまでも持っていないで下さい。イライラして怒ってつばをかけます。ご注意下さい。

さすが地獄!圧倒的理不尽!圧倒的恐怖……!

別府には街中に温泉があって、高くても数百円で温泉に入れる。地元の人は回数券で1回数十円で温泉に入るのだとか。昔ながらの家にはお風呂がないそうだ。ピンク街のど真ん中にある竹瓦温泉の風格はハンパなかったし、鉄輪のどこでも足湯状態はさすがに驚いた。

前々から思っていたが、九州って日本じゃないよね。この景観レベルの違いをうまく言語化できるまでには考え抜いてないんだけど、なんていうか景観完成度が高いというか、あるべきものがあるべき場所にあって、歴史をうまく反映しているように思う。海と山の近さ、急峻さの違いによるものなんだろうか?あるいは大陸の人が多いからなのか?もしかしたら関東人とバブルの手が届きにくかったからかも?まあ、隣の芝生は、という辺境思考なのかもしれないけどね。

別府へは、大阪からフェリーが出ているけれど、東京からだと飛行機で行くよりほかにない。そういうわけで、関東人に会う機会は皆無だった。どうやら、鉄輪は九州の人がメインで訪れる温泉郷のようだ。湯布院はまあ有名だけど。
実はこの旅行、海の日と土日が接続する3連休の旅で、大分が歴史的豪雨に見舞われたときのことである。これで、九州からの旅行客があまり来られずに、観光地もそれほど混み合っていなかったのだ。そういうわけで、台風で休校になった後、すぐに晴れて遊びに出る小学生のような、後ろめたくないはずなのに少し後ろめたい気分のつきまとう旅路。

海地獄。地獄巡りは、まるで天国のようでした。