水神
「水神」(帚木蓬生)読了。
現代にはない土木事業の姿が。
- 作者: 帚木蓬生
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2012/05/28
- メディア: 文庫
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この本は、筑後川の堰造りの話。筑後川では、17世紀後半から18世紀にかけて、筑後川四堰といって4つの固定堰が造られたが、その2つ目にあたる大石堰の物語である。助左衛門が構想していた、渇水に苦しむ村を救うための水路計画。それを、5つの庄屋が主体となって、私財を投げうってでも、多くの反対にあいながらも、完成させていく、という。
オモシロイのは、この事業が徹頭徹尾ボトムアップで進められていたこと。例えば同じ大工事モノ(?)としては、「黒部の太陽」とかがあるわけだけども、明治以前の公共事業と、明治以降の公共事業はぜんぜん違うんだよね。
- 作者: 木本正次
- 出版社/メーカー: 信濃毎日新聞社
- 発売日: 1998/06
- メディア: 文庫
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これはもう、今の時代は存在しないタイプの公共事業。もちろん、江戸時代でも玉川上水とか、トップダウンの事業はたくさんあっただろうけど、大石堰みたいに、ボトムアップで土木事業を行えた、最後のチャンスだったんだろうな、と。
これと比べると、今では土木事業を実行する人や利益を享受できる人が、地域から引き剥がされがちになっているわけで、これは明治以降の人と自然との向き合い方の反省点その1なんじゃないかと思うなあ。
ローカルな思想を創る〈1〉技術にも自治がある―治水技術の伝統と近代 (人間選書)
- 作者: 大熊孝
- 出版社/メーカー: 農山漁村文化協会
- 発売日: 2004/03/01
- メディア: 単行本
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顔も知らない人のために大工事を為す使命感と、目の前にいる人や自分の属するコミュニティのために大工事を為す使命感。誤解のないように言えば、僕は前者を成し遂げられるのはとても人間らしいことと肯定的に思っている。いるんだけども、そこで使命感を感じられる人だけに任せることが、自然への無関心のトリガーを引いて、結局よろしくない社会になっているのであれば、それは改善点があるよなーと思うわけです。