ムカシ×ムカシ

裏表紙を読んで、京極かよ!と思ったのは内緒。

 ついにXシリーズもノベルスで読むようになってしまったことよ。本作は、森博嗣にしては珍しく、動機に踏み込んでいるな、と思った。自分の存在価値を失わないための殺人。最も人間的な動機。すごく、ウェットにつくられていると思う。
 ウエットなのはもちろん、小川さんのせい。Xシリーズを通して、物語をモチベートしているのは、小川が失ったものを切望している、というところで、これはもちろん、S&Mシリーズの西之園萌絵と基本的には一緒。ただ、萌絵がいくらか破滅的だったのに対して、小川さんはちゃんと、いろいろ線引している人だし、天才よりとして描かれていないので、基本的には安心して見ていられる。だけど、フラジャイルな特異点みたいなところがあって、今回みたいに、孤独というか、そういうところに触れると、急に一葉のアパートを訪ねてしまったり、破滅的なほうにスイッチが入ってしまう。で、この辺は森博嗣の書き方が圧倒的なところで、特異点から加速度的に展開が転がってくところは流石としかいいようがない。
 S&Mを読み返すと、萌絵はどうしても特殊な人間と見えるはず。その点、小川さんの、基本的には大変スマートだけど、内面はフラジャイルっていうのは、たぶん、特に女性はすごく感情移入しやすいことと思う。女の子って、そういうところ、ありますよね、と。今回の、永田が泣き出しちゃうとことか、もう、よく書けるなって。たぶん、男子の50%くらいは、意味がわかんないと思う。ああいう状況で、感情の水かさが上がっていって、最終的に溢れてしまうような感覚って、なんで男性にはメジャじゃないんだろう?後天的なものなんだろうか?
 話を戻すと、Gシリーズが四季を目指して収束していくのと違って、Xシリーズは、小川がどう救われていくのか、というところに終着点があるんじゃないかなーと思っていて、萌絵のケースよりは、当然、もう少し現実的な、あまり突飛ではない結論に落ち着く、と勝手に思っている。天才でなくとも到達し得る解を提示するんではないのかな、と。
 森博嗣インタビューによると、次作は「サイタ×サイタ」。これは猟奇ホラー・サスペンスな感じがしますね(てきとう)。最終作は「ダマシ×ダマシ」。こっちは、なんかわかる。小川のスタンスは、これだもんね。まあ、だましだまし生きていくしかないんじゃないですか?みたいな。