破壊する

ダムが破壊する。
 と、土木分野では言う。いや、別にダムが環境を破壊するという意味ではない。もちろん、ダムがロボットみたいに変形して町を破壊する、ということでもない。ダムが壊れる、決壊するという意味で、「ダムが破壊する」と言う。ほかにも、「橋が破壊する」、「柱が破壊する」のように使う。


 なぜ、「ダムが破壊される」ではないのだろう?「破壊する」はどう考えても他動詞だ。「テロリストが破壊する。」と言っても、テロリストが粉みじんに吹き飛ぶ状況を想像することはできない。


 僕の考え。
 まず、この分野では、注目する構造物が主体とみなされる。土が壁を押す時は「主働土圧」というし、壁が土を押す時は「受働土圧」という。ダムや橋が主体なのである。
 もうひとつ、構造物を破壊するのは人やその他の能動的な存在ではない。構造物を破壊するのは荷重であり、水圧であり、自らの重量である。それらにはたぶん、「破壊される」と表現するのは相応しくないのだろう。
 どちらの理由にも、土木分野の人々が対象をどのように見てきたかが美しく反映されている。