コンクリートの文明誌

「コンクリートの文明誌」(小林一輔)読了。表紙かっこいい!

コンクリートの文明誌

コンクリートの文明誌

目次
第1章 すべての道はローマより発す――古代都市国家とコンクリート
1 火山灰が原料?
2 ローマ人と公共事業
3 廃れゆく遺物
第2章 二千年の闇をぬけて――近代文明とコンクリート
1 スミートンの着眼点
2 近代化をささえた鉄筋コンクリート
3 「アメリカの世紀」をささえた巨大公共事業
4 横浜築港とコンクリート亀裂事件
第3章 激動の時代のなかで――総力戦とコンクリート
1 帝国自動車国道
2 硫黄島の「防波堤」
第4章 戦後復興とともに――高度成長とコンクリート
1 戦後集合住宅私的変遷史
2 夢の超特急の影で
第5章 シヴィル・エンジニアへ――現代日本とコンクリート
1 コンクリートから見た日本と西欧
2 土建屋とシヴィル・エンジニア
3 コンクリートの美学


 現代において、コンクリートは土木技術の象徴だ。もちろん木造構造物や盛土も土木技術によるものではあるのだが、土木と言われて、まず思い起こされる材料はコンクリートである。その理由は、やはり景観にある。日々眺めている景色の中で、人工の構造物のほとんどはコンクリートでできている。日々、コンクリートに囲まれて生活している。それにも関らず、「コンクリート」という言葉に否定的なニュアンスを感じる人も多い。「三面張り」や「コンクリートジャングル」などはたいてい、人工物に対して否定的な文脈で登場する。どうして、こんなことになってしまったのか?コンクリートはただの材料にすぎないのに。


 もし、フリッツ・トットが言うように、

コンクリートと石は物質的な物であるが、人間はこれらの物に形式と精神を与える

のだとすれば、現代の日本において、コンクリートが都会的な冷たさや環境破壊を感じるのは、僕らが建造物を通して自分たちの精神を見つめていることに他ならない。第二次大戦中に建造されたマジノ線がフランスのナチスに対する恐怖心を表し、アウトバーンがドイツの民族共同体思考と技術への賛美を反映しているというのであれば、現代日本における整いのない街並みや画一的な建造物の群れ、道路の下に埋められた川は、いったい何を表しているのだろうか?

気になったフレーズ


ドイツの構造エンジニア フリッツ・レオンハルトの言葉

正しい秩序からしか美は生み出せない。橋にとっての正しい秩序とは構造系がなす基本的な秩序である。一つの橋に異なる系を混合せず明確に統合する。正しい秩序は構造系のエッジの向きが表わす。線や方向の正しい秩序は一定の間隔を目指せば得られる。

蛇足

 実は、同著者の最新 コンクリート工学(第5版)を使って勉強していたりする。教科書は退屈だけど、「コンクリートの文明誌」は面白い。それもそのはず、ちゃんと読ませるようにデザインされている。目次の後には「セメント」「モルタル」「コンクリート」の違いが書かれているし、1章のつかみもうまいし、横浜築港のくだりはミステリ仕立てになっていたりする。一般読者に配慮したつくりだ。それでいて、根底には常に、日本の土木がいかにあるべきか、というテーマが流れている。ええ、いい本でした。