河川工学(高橋裕)

「河川工学」(高橋裕)読了。
河川をいかに「視る」か。

河川工学

河川工学

目次
第1章 河川とその工学
第2章 河川の調査
第3章 河川現象とその解析
第4章 治水
第5章 水資源の開発と保全
第6章 河川環境
第7章 河川構造物
第8章 流域管理と森林
第9章 河川文化―河川技術者と住民
付録 日本の河川の特性/明治以降河川年表/文献解題



 本書によると、

ベテランの河川技術者であれば,砂礫河川にある砂礫がブルドーザーなどで荒らされていなければ,それらの砂礫がいつ発生した洪水によって運ばれたかをほぼ正確に推定することさえできる.

 えっ!?それはすごい。樹高の目測なら経験あるけど……しかも河川流量も、目測で誤差2割くらいらしい。技術者を尊敬の眼差しで見ざるを得ない。とまあ、こういった驚愕の記述が随所にあるので、それらを楽しむのも良い。

 著者は技術の説明をしながらも、対象を観察することの必要性を要所で説く。曰く「構造の進歩が川を見る目を衰えさせることを憂う」と。すなわち、高度な構造物を建設することが困難であった時代においては、「どのような構造物をつくるか」よりも「どこに構造物を配置するか」のウェイトが大きく、そのためには流れ、土砂流動、河相の把握が必要不可欠であった。さらに、構造物に頼るのみでない、より広い視点からの対策を考えることの必要性が高かった。現代においても、これらの必要性がなくなったわけではないが、もし意識的に河川を視ようとしなければ、ロストテクノロジーのように失われる技術もあるかもしれない。
 また、大熊孝*1の定義に則り、河川を「物質循環の担い手」と定義しているところはとてもスマートだと思う。例えば、砂防施設なんかは災害防備のための施設であり、その点に異論はないけど、「物質循環」という視点でみれば、その計画を評価するには、土砂収支を考える必要があると分かる。下流のアーマー化*2や沿岸地域での砂浜後退が起こっているならば、施設として問題があるということになる。

 まとめると、本書は河川という対象をいかに視るか、という本であると言える。本文中では「見る」だが、むしろ「視る」。すなわち、観察し、把握し、解釈する。河川工学のスタート地点であるこの行為のガイドブックとして、最適な一冊だ。 

関連:
河川地形学の位置づけ - けれっぷ彗星
河川計画論 - けれっぷ彗星

*1:洪水と治水の河川史 - けれっぷ彗星

*2:河床から砂礫が流出し、大きな岩石のみが残る現象