市場経済下ベトナムの農業と農村

市場経済ベトナムの農業と農村」(長憲次)読了。
農業インフラ開発の基礎知識的位置づけとして。

市場経済下ベトナムの農業と農村

市場経済下ベトナムの農業と農村

目次
序章 ベトナムの経済発展と農業
1. 農業改革の進展
2. 改革後の変化
3. 改革後の計ジア発展の特徴と問題
4. 経済発展の初期段階における農業部門の役割
5. 農業の地域性と本書の目的
第1章 紅河デルタの農業
1. 紅河デルタの概要
2. 紅河デルタの農業と農村の特質
3. 改革後の農業発展と農民家族の就業構造の変容
4. 今後の諸問題
第2章 メコンデルタの農業
1. メコン川メコンデルタ
2. メコンデルタの開発過程と伝統的米作農業
3. 改革後の米作農業の躍進
4. 米作農業の集約化が伴った問題点と米作農業の経済性
5. 米流通の現状と諸問題
6. メコンデルタ農業の多角化への課題
7. メコンデルタの果樹農業
第3章 中部高地の農業
1. 中部高地の自然と在来少数民族による伝統的焼畑農業
2. 中部高地への大規模移住の進展
3. コーヒーを主にした農業生産の躍進
4. 最近の農業開発が伴ってきた問題点
5. 今後の課題
6. 中部高地での畜産的土地利用について
あとがき

 BRICsの次はVISTAだ(関連:中堅5カ国「VISTA」、BRICsに迫る成長力)などと言われ、その先頭に立つベトナムカントー橋の崩落事故がまだ記憶に新しいけど、社会基盤の整備は着実に進んでいる。では、ベトナムのインフラとして特徴的なものはなにか?
 メコンデルタの運河網は、農業用排水路*1としてだけではなく、運河、つまり交通網として機能している。僕も一度だけベトナムを訪れたことがあるけど、小さなボートにに乗せてもらってあちこち移動した覚えがある。
 この地域は、道路があるのはせいぜい堤防の上だけで、それ以外は運河を移動したほうが効率がいい。つまり、自然環境が制限要因となって、運河社会が形成されてきた、と言ってもいい。
 最近では、道路の整備が進んでいる。Google Earthで見るとわかるけど、新しい道路がいくつも造られている。経済発展のために道路が必要不可欠なことは分かる。運河で輸送するより、道路で輸送したほうがはるかに速い。
 しかし、その開発が、間違った方向に進むような気がしてならない。ベトナム運河網開発の歴史は浅く、せいぜい帝国主義時代までしかさかのぼれないが、地域住民の社会をかたちづくっているのは、運河網だと思う。生活、農業、社会、交通、景観、こういったものが運河と強く結びついている。
 運河の主要な目的の1つである「交通」が道路に大きく依存するようになったとき、地域の環境や社会がどう変わっていくだろうか?明確な答えはない。
 この問題は、日本がいま直面している問題と同じだと思う。だとするならば、自国と同じ過ちを繰り返さないようにすることは、開発を支援する先進国の責務だ。

 

*1:用水路と排水路のこと