フォークの歯はなぜ四本になったか

「フォークの歯はなぜ四本になったか」読了。
毎日「失敗」に囲まれて生きている。

フォークの歯はなぜ四本になったか (平凡社ライブラリー)

フォークの歯はなぜ四本になったか (平凡社ライブラリー)

目次
まえがき
第一章 フォークの歯はなぜ四本になったか
第二章 形は失敗にしたがう
第三章 批評家としての発明家
第四章 ピンからペーパークリップへ
第五章 瑣末なモノもあなどれない
第六章 ファスナーが生まれるまで
第七章 道具が道具を作る
第八章 増殖のパターン
第九章 流行とインダストリアル・デザイン
第十章 先行するモノの力
第十一章 開けるより封じる
第十二章 ちょっと変えて大儲け
第十三章 良が最良よりも良いとき
第十四章 つねに改良の余地がある
訳者あとがき
解説 失敗の発明 棚橋弘季

 前から読みたいと思っていた本が平凡社ライブラリーになったので、読んでみた。どんな本か、という話は解説の方がすばらしいエントリをあげているので、僕は個人的な感想を中心に書いていこうかと。

「形は機能に従う」の間違い

 非常にざっくり言えば、本書の内容は「形は機能に従う」説に代わり、「形は失敗に従う」説を提示したものだ。

本当の意味でモノの形を決めるのは、ある働きを期待して使ったときに感知される現実の欠陥にほかならない。

そして、著者はその傍証を求め、フォークやら缶やら、クリップなどを持ち出して、その進化の歴史を語り始める。これがまた、面白い。ふと、手元にあるクリップを手に取っていじくりまわしてしまう。この本にはそういった魔力がある。え?僕だけ?
 そもそも、「形は機能に従う」(Form follows function.)っていうのは、ラーメンの大好きだった建築家ルイス・サリヴァンが言った言葉である*1。あまり建築には詳しくないが、彼は高層建築のようなものを志向する人間だったようなので、この言葉自体、「形は機能に従うべき」と言っているのような節がある。
 しかし、本書が指摘していたように、「完全なデザイン」というものは存在しない。機能に従うように形をつくっても、「デザインの失敗」はなくならない。要求される機能は時代とともに変わっていくし、もとよりすべての要求を同時に満足することはできないからだ。

工学者の視点

 結構びっくりしたのは、著者のヘンリー・ペトロスキーは土木工学の教授らしいのだ。そういうことでいくと、「形は失敗に従う」と言ったって、橋や道路を造って「失敗でした、造り直そう」というわけにはそうそういかない。
 サリヴァンは、「じゃあ、完全なデザインをつくればいい」と発想したが、ペトロスキーは、橋とフォークとの代謝速度の違いに注目したのかもしれない。橋梁技術の歴史を紐解くように、フォークやらクリップやらの進化史に目をつけたのだ。そこに、形の変遷に関する重要な仮説があるかもしれない、と。
 松岡正剛に言わせると、

これはわかりやすくいえば「文化を工学する」ということである。また「文化を科学で見たいということだ。なんとなくできあがってしまったように見えるものをエンジニアリングしたい。

こういうことらしい(『本棚の歴史』ヘンリー・ペトロスキー 松岡正剛の千夜千冊・遊蕩篇)。
 橋もフォークも、人とモノが影響を与えあっているわけで、その進化過程に原理的な違いはない。そこに働いている法則のようなものを見つけ出すのは、やはり工学の視点である。

*1:ラーメン構造です。僕は不静定は難しくて嫌いです。