海に住む少女

「海に住む少女」(シュペルヴィエル)読了。
詩から溢れ出した世界が物語になったような感じ。

海に住む少女 (光文社古典新訳文庫)

海に住む少女 (光文社古典新訳文庫)

 訳者に言わせると、「フランス版宮沢賢治」だそうで。表題「海に住む少女」を含む、幻想的な10本の短編集。

海に住む少女

 「この海に浮かぶ道路は、いったいどうやって造ったのでしょう」そう始まる冒頭は、いまだ現実との接点を保っているが、次のページをめくるころには、すでに現実の世界からは遠く突き離されている。
 それだけに、最後の「理由付け」は要らなかったのではないか。あれのせいで、話が嘘っぽく聞こえてしまう。たぶん、僕が「現実」への比重を大きく持つようになったからかもしれない。もっとあの世界に長く浸っていたら、あるいは受け入れられたかもしれない。

詩人の世界

 作者のキーワードは「海」「箱」「少女」「孤独」「別世界」など。こういったキーワードに独自の詩的感覚あるいは世界観を持っている。時には、映像として表現しえないような世界を展開してくる。
 文章のすごいところは、イメージできないものを表現できるところだ。喩えが悪すぎるが、内角の和が180度にならない三角形を想像できるだろうか?絵や映像ではできない。文章だけが、形として存在しえないものを表現できる。
 そんなものはない、と言っても、言葉の上でしか存在しない、と言っても、それを表現していけないことはないし、そういう無駄なものを創れるのが人間の特権であるとも思う。
 こういった本を読む時はとてもぜいたくなものであると感じる。専門書を読むときのように強く読むのではなく、ビジネス書を読むときのように「なにかを得る」ために読むのではなく、ただ、その世界を訪ねるために読む、ということ。

人々が道を行き交います。彼らはいつも、きちんとした理由があって、街のある地点から別の地点へと向かっているのでしょうか。