海の仙人
「海の仙人」(絲山秋子)読了。
ファンタジーがやって来たのは春の終わりだった。
- 作者: 絲山秋子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/12/22
- メディア: 文庫
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「いや」
片桐が言った。
「孤独ってぇのがそもそも、心の輪郭なんじゃないか? 外との関係じゃなくて自分のあり方だよ。背負っていかなくちゃいけない最低限の荷物だよ(後略)」
孤独だ、と感じるときというのは、あくまでも心の輪郭たる「孤独」を再認識している状態である。だから、ひとりぼっちのときに孤独を感じることもあるし、喧騒の中で、人の輪の中で孤独を感じることもある。
そしてまた、「孤独は最低限の荷物」であるとも言う。すなわち、孤独に流され、他者に甘えるのではなく、孤独を引受けたものだけが、他人と尊重し合える関係を築けるのだな、とも。そういうふうに本作を眺めてみると、確かにすべての登場人物が自らの孤独を引き受けている。あまりにもストイックではある。
しかし、孤独が心の輪郭であるというなら、孤独に触れなければ、相手の心のかたちは感じ取ることができないのではないか。で、どうやって孤独に触れるかというと、その方法は「甘え」以外にないようにも思う。他者の心の輪郭を確かめるには、想像力でも限界があると感じる。このように考えると、「甘え」というのは相手の孤独を、心の輪郭を確かめるために組み込まれた、半意図的なバグなのかもしれない。