現代の金融入門

「現代の金融入門」(池尾和人)読了。
類まれな金融の入門書。

現代の金融入門 [新版] (ちくま新書)

現代の金融入門 [新版] (ちくま新書)

目次
第1章 金融取引
第2章 銀行システム
第3章 金融政策と中央銀行
第4章 資産価格とそのバブル
第5章 日本の企業統治
第6章 金融機能の分解と高度化
第7章 金融規制監督

 生協に入り、目に入る「ちくま新書売り上げベスト5」。その中にあった一冊である。もしかしたら、一般教養の参考書だからランクインしているだけかもしれないが、そんなことはあまり重要ではない。

 犬も歩けば経済の入門書に当たる、と言えそうだが、金融の入門書はほとんど見たことがない。しかも、平易に書かれたおてごろ価格のものとなると、絶望的なのではないだろうか。

 もちろん僕は、金融のきの字も学んだことはないが、本書の内容は、おおむね理解できた。それくらいわかりやすい。例えば、金融取引の定義。

換言すると、この「将来時点でお金を提供するという約束」が、金融取引において売買対象になっている商品(金融商品)であり、金融商品を売り買いするのが金融取引である。

おおーわかりやすい!とまあ、そんな感じで、金融の仕組みが、どういう概念をもとに設計されていて、どういう仕組みになっていて、どんな問題があるのか、ということが説明されている。
 特に面白いのは、第5章日本の企業統治である。いわゆる、コーポレート・ガバナンス、というやつ。
 そもそも、企業のリスク負担者は株主である。株主は企業に投資をしているわけで、うまくいけば得をするのは株主、損をするのも株主だ。このような前置きを置いた上で、著者は次のように言う。

すなわち、企業特殊的な訓練を積む労働者は、その企業と命運をともにする度合いが高まっているのに対して、逆に個々の株主は、保有株式を流通市場で売買することによって、特定の企業から容易に資本を引き上げることが可能になっている。こうした事情を考えると、労働者の方がむしろ企業の新たなリスク負担者になっているとさえ言えよう。

ああ、なるほど、これは僕も以前考えたことだ。

要するに、その企業でしか使えない極めてドメスティックな能力しか持っていない状態。一生をその企業で終える分には、それでも問題ないのかもしれない。しかし僕は、自身が「定住」してしまうことに強く危機感を持っていたりして、どこに行っても、どんな場所でも、仕事ができるような能力、まあ、メタ仕事力とでも言えばよいだろうか、そういう力がないと、真に「安定」することはないだろうな、と思っている。
コンサル就活対策 - けれっぷ彗星

 この感覚は、金融論から見ても、間違っていなかったわけだ。普遍的にこう、というわけではなく、日本の企業統治が歴史を踏まえてきて、環境が変化した結果、そのような状況になっているという認識が正しいだろう。
 索引もついているので、繰り返しの読書、用語・概念の確認、金融の勉強にも耐えうる良書と言える。