シェル・コレクター
「シェル・コレクター」(アンソニー・ドーア)読了。
やっぱりわかりあえないんだな、という諦観が、「それ」を支えている。
- 作者: アンソニードーア,Anthony Doerr,岩本正恵
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2003/06/01
- メディア: 単行本
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自然はもともと、怖ろしいものだ。それを目の当たりにして、実感して、「それでも自然は美しい」と言える機会は、ほんとうに少ない。それらを「自然賛歌」にまとめてしまうのは、少し惜しい。
「シェてル・コレクター」は「アメリカの若き新鋭による、希望に満ちた、心に沁みる短篇集」。とオビに書いてあった。作家としては珍しく、表題作の「貝を集める人」(= The Shell Collector)はもちろん、「ハンターの妻」、「ムコンド」など、すべての作品で、自然が丁寧に描かれている。アンソニー・ドーアの描く自然は、「自然賛歌」に留まらない。それはきっと、人間の望む「平穏」が、自然と根本的に相容れない、という直感からくるものだろう。
その構造はストーリーにも見える。「人を救うことがどんなに素晴らしいことか」と主張する息子と、「ただそっとしておいてほしい」と考える主人公。化石を研究し、知の深みに潜っていく研究者と、知ではなく、直感で大地を愛する妻。両者は根本的にわかりあうことができない。
そういったものをごまかしてしまう視点というのは、比較的ありふれたものだ。読んでいて心地よいだけの物語は、たいてい、そういうところを避けている。見ないようにしている。
アンソニー・ドーアは決してそれをしない。できれば見たくない「本質的な共感不可能性」を直視して、書ききる。だからだろう。息を呑むような美しい文章が、そこにはある。