今年読んでよかった本 in 2012

 年末です。毎年恒例、今年読んでよかった本をご紹介。対象は、僕が今年読んだ本のうち、オススメできる本。あと、このブログで言及したもの。ブログで感想書いてる以外にも何冊か読んではいるけど、それらは僕としては「読めていない」という扱いなので、取り上げない。
今年読んでよかった本 in 2011
今年読んでよかった本 in 2010
今年読んでよかった本 in 2009

今年読んでよかった本 in 2012

河岸忘日抄 (新潮文庫)

河岸忘日抄 (新潮文庫)

だいたい、自分が夢中になった本については、うまく文章が書けない、ということがある。この本もそうで、読んでいたときにはあんなにも深いところまで潜っていっていたような気がするのに、いざ自分の言葉にしてみると、平凡でつまらない残滓しか手のひらには残っていない。ただ、そういう読書体験ができる本があるというのはある意味幸せなことのような気もするわけで、何が言いたいかというと、読まないとこの凄さは分からないよなー、という。
河岸忘日抄 - けれっぷ彗星
百年の愚行 ONE HUNDRED YEARS OF IDIOCY [普及版]

百年の愚行 ONE HUNDRED YEARS OF IDIOCY [普及版]

読まないと分からないこともあれば、目にしないと分からないものもある。人類がこの百年の間に為してきた愚行。それを語る媒体は、広告やテレビに溢れているステレオタイピックな言葉の切れ端ではなくて、たぶん、この本にあるようなものが相応しいだろう。どうして人類はこんなことをしてきてしまったのだろう、という絶望に打ちひしがれる心理的なステージは、僕にとってすでに過去のものたなったけれど、失くしてはいけないものがあるとしたら、この本を開いたときに想像力を働かせられるマインドセットだろうな、と思う。
百年の愚行 - けれっぷ彗星
パレオマニア 大英博物館からの13の旅 (集英社文庫)

パレオマニア 大英博物館からの13の旅 (集英社文庫)

想像力というのは結局なんなのかというと、能力というよりは、知識と経験に基づいて、ある程度の飛躍を許容した上でストーリーを構成して、自分もそこに深く入り込んでいくっていう技術なんじゃないかと思っていて、ハイレベルな想像力は誰にでもできることじゃない。そこへいくと池澤夏樹の想像力はハンパないものがあって、ここまでいくと旅も楽しくて仕方がないんじゃないかな。自ら学ぶ旅こそ至高、なのですよ。
パレオマニア - けれっぷ彗星
ウナギ 大回遊の謎 (PHPサイエンス・ワールド新書)

ウナギ 大回遊の謎 (PHPサイエンス・ワールド新書)

生物関連は軽めの本ばかり読んでいたけれど、これはかなりおもしろかった。ウナギはどこで産卵をしているか突き止める研究者の話で、海でグリッド状に何点かでサンプリング→サイズの小さい個体が取れた方向に進む、という地道な作業を繰り返していくさまはプロジェクトXになってもいいくらい。新書ではせいぜいその片鱗程度しか味わうことができないのかもしれないけど、それでも「産卵場はそこにあったか!」という感動があるのは、昔そういう研究をしてたからかなあ?
ウナギ大回遊 - けれっぷ彗星
熊から王へ カイエ・ソバージュ(2) (講談社選書メチエ)

熊から王へ カイエ・ソバージュ(2) (講談社選書メチエ)

今年は生物学や生態学よりもう少し向こう側にある、人類学や民俗学のほうへと進出してみた。「熊から王へ」はそういう僕の読書傾向を示しているようでもある。原初、熊は神であった。環太平洋に散らばる神話から、「野蛮」と「文明」というストーリーを浮き上がらせるのだが、これほど大胆な仮説を提示できるのは、やはりすごい。伴読部でもキーになった一冊かもしれない。
熊から王へ - けれっぷ彗星
東インド会社とアジアの海 (興亡の世界史)

東インド会社とアジアの海 (興亡の世界史)

伴読部でオススメされた本としては、これがかなりツボだった。歴史を学ぶということは、社会の力学のセンスを学ぶことである。この本のおかげで、帝国主義を築くために東インド会社が作られたのだ、という偏見から解放された。なんにしても、悲惨な事象と結びつきがちな事象には、アレルギーのように反応してしまいがちだけれども、正確な知識と、多角的な視点が、そういったものから自分をフリーにしてくれる、というのが「学ぶ」ことの真髄である。
東インド会社とアジアの海 - けれっぷ彗星
悲しき熱帯〈1〉 (中公クラシックス)

悲しき熱帯〈1〉 (中公クラシックス)

この本は「熱帯の旅行記」ではない。じゃあなんなのか、と言われると困るけれども、観察と思索と冒険の交じり合ったエッセイのようなもの、というところだろうか。ずっと読みたくて、しかしまだ読んではいけないような気がして、周りに散らばっている本からすこしずつ読んでみて、「そうか、そんな本なのか」などと勝手に妄想してみて、そうしてついに読んだ本が期待を裏切って面白かったときほど、うれしいことはない。僕にとって「悲しき熱帯」はそういう本だった。松岡正剛が「構造主義の全体と『悲しき熱帯』のどちらを取るかといわれれば、ぼくは後者の一冊を選びたい」と言うことには完全に賛成だ。
悲しき熱帯 - けれっぷ彗星

番外編

今年は番外編もやってみよう。本よりはメジャよりになるかな。

大奥 (第1巻) (JETS COMICS (4301))

大奥 (第1巻) (JETS COMICS (4301))

マンガ部門。あえて僕がオススメするまでもなく、メディアの皆さんがプッシュしてるけど、これはオモシロイですよ。特に1巻から3巻までの盛り上がりはハンパない。男性のみが奇病にかかる世界で、女性が将軍にならなければならなくなった世界のお話。ドラマティックな展開がうまいのは流石BL系の漫画家というのはあるとして、そういう世界になったら社会がどう動くのか、という思考実験としても注目している。
ダークナイト ライジング Blu-ray & DVDセット(初回限定生産)

ダークナイト ライジング Blu-ray & DVDセット(初回限定生産)

映画部門。クリストファー・ノーランはずっと見続けているのだけど、やっぱり「ライジング」も良かった。複雑な内容と心理描写をハリウッドでも、あるいは「アメリカ」でもできるんだ!というのはダークナイトのときから思ってたけれども、それは健在だった。たぶん日本のエンタメではずっとやってきたことだろうな、と思うんだけれども、これをハリウッドでもやることに価値があると思う。
SHERLOCK / シャーロック [DVD]

SHERLOCK / シャーロック [DVD]

ドラマ部門。シャーロック・ホームズのリメイクものっていうのは、けっこう多いけども、これは秀逸。キャラの設計、画面作りから音楽までここまでパーフェクトなドラマっていうのは見たことがない。小学生以来に原作を読みたくなった。