世界の経営学者はいま何を考えているのか

「世界の経営学者はいま何を考えているのか」(入山章栄)読了。
アメリカの経営学者はドラッカーなんか読まない。

世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア

世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア

アメリカの経営学者はドラッカーなんか読まない

 この本のキャッチコピー。世界的に見るとそうじゃないんだよ、という煽り文句は、卑弥呼さんが金印貰ってる時代から、アメリカのお伺いを立てないと外交政策立てられない時代に至るまで、辺境人たる日本人には絶大な影響力の武器なわけですね。まあそうだろう、というか、別に驚きはしないんだけれど、じゃあむしろ経営学ってなんなの?どういうアプローチがあるんだろうね?というところが気になるわけだ。
 学問のアプローチとしては、日本ではいわゆる「ケーススタディー」がアツい。つまり1社の事例を取り上げて、どういう経緯で成功したか/問題発生したか/問題解決したか、とかを研究するやつ。僕も大学院のときに少し齧ったけれども、これはけっこう面白くて、雪印の食中毒事件はなぜ起きたか?とか、ハリケーンカトリーナはなぜ想定外の被害になったか?とか分析するのは議論が白熱したもの。ただし「世界的な」潮流では、むしろ複数の企業をサンプリングして統計解析→一般的な傾向をつかむ、という方法が主流なんだという。
 もちろん、この手の議論で一番やってはいけないのは、「だから日本のやり方はダメだ」というかたちの決めつけ。アプローチは一長一短だから適材適所に使い分けましょ―、ということが言えないとまずい。その辺は筆者もよくわかっているようで、すごく慎重な(慎重すぎるかも?)言葉選びをしていた。僕なんかは、そんなミスリーディングのための配慮するなら、ひとつでもトピック増やしてよ!と思うんだけど、いろんな人がいるからねー。以下、僕が気になった「知のフロンティア」3つ。

企業の持続優位は、一時的優位をくさりでつないだもの

 最近、並行して「ビジョナリー・カンパニー」やらなんやら読んでいるけど、この辺のことをデータに基いて示せるっていうのはかなりスゴイと思う。

現在の優れた企業とは、長いあいだ安定して競争優位を保っているのではなく、一時的な優位をくさりのようにつないで、結果として長期的に高い業績を得ているように見えるのである。

 直感的に連続的な変化だと思えるものは、実は不連続な変化だ、というパラダイムはどの学問領域にもあって、進化論でも、生物は徐々に進化するんじゃなくて突然変異によるものだよ、とか、教育学(?)でも、学習の効果は徐々に高くなるんじゃなくて、段階的に伸びるんだよ、とかね。

ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則

ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則

イノベーションのジレンマ VS コンピテンシー・トラップ

イノベーションのジレンマ」は、破壊的なイノベーションが起きると、それまで「優秀」だったはずの企業はその変化を認識できず、失敗してしまう傾向がある、ということ。でも著者は、というか「世界的な潮流」としてはそれだけ注目してるだけじゃ片手落ちでは?と指摘する。
 それが「コンピテンシー・トラップ」。事業が成功すればするほど、いろんな分野にチャレンジしなくなって、「知」を深めることばかりに注力するようになる、というアイデア
 この2つがどう違うのかイマイチよくわからなかったのだけど、イノベーションのジレンマが、問題の本質を「企業幹部の認識」に求めるのに対して、コンピテンシー・トラップは問題の本質を「組織」に求めるのだとか。
 日本では「イノベーションのジレンマ」ばかり注目されて、「コンピテンシー・トラップ」があまり注目されないのも、組織がどうこうというよりも、トップに立つ人が責任を持たなければ的な発想が支配的だからなのかも。あんまり好ましくない傾向だと思うんだけどね。

イノベーションのジレンマ 増補改訂版 (Harvard Business School Press)

イノベーションのジレンマ 増補改訂版 (Harvard Business School Press)

「弱い結びつき」のほうが優れている、という誤解

 ITのフロンティアにそれなりに近い人と話をすると、これからはtwitter型の「弱い結びつき」の時代ですよっていう話になる。うーん、そうかもなー、なんて思っていたけれど、経営学の研究で明らかにされてきているのは、強い結びつきと弱い結びつきの得手不得手。
 弱い結びつきが得意なのは情報伝達。パスが多く、皆がつながっていれば、多様な情報を広く集めて、より遠くへ届けられる。でも、その情報の信頼性はどうか、深さはどうか、といったときに、それらは担保されにくい。
 この辺のデメリット面は震災後にたくさん議論されたみたいだけど、ひとつの解は「強い結びつき」つまり、mixiみたいな、つながる相手を限定した、コミュニケーションが密なネットワーク。双方を使い分けるのか、それとも新たな構造が発見されるのか。同じようなことが、企業の組織論としても考えられている。

IT時代の震災と核被害 (インプレス選書)

IT時代の震災と核被害 (インプレス選書)