DNPミュージアムラボ行ってきた
たぶん今一番未来に近いミュージアムなんじゃないだろうか? DNP、つまり大日本印刷と、ルーブル美術館が共同でやっている実験的ミュージアム。
http://www.museumlab.jp/
技術が拓くギリシャの名作
今回の展示は「古代ギリシャの名作をめぐって」ということで、「アンタイオスのクラテル」とか、「休息するヘラクレス」像など。
ミュージアムラボはネットからの予約制で、なんと無料。しかも来場人数をコントロールしているから、すごく空いてるんだよね。やっぱり社会人になってなにが辛かったかといえば、博物館やら美術館に行こうと思っても、混んでる時間にしか行けないということで。平日の午前中に観覧していた学生時代が懐かしい。……というのはまあ、本筋ではなくて。
美術館の観覧方法っていうのは、技術の進歩に伴って、もっと直感的に、もっと五感をフルに使ったかたちにできるんじゃないの?というスタンスで実験をされているのだと思う。僕らはその被験体というわけだ。
まずはヘラクレス像の解説。これがタッチパネルになっている。長々と書かれた解説板はもう必要ない。だいたい、ぜんぶ読みたいか?と言われれば疑問だ。自分の気になる情報だけピックアップしたいと思うのは自然なこと。このパネルが充実しすぎていて、うっかり実物を見るのを忘れてしまうほど。
続けて「アンタイオスのクラテル」「赤像式の杯」「デュオニソスの仮面」と続く。……あれ?これだけ?と思ったけど、やはり展示物はこれだけ。一抹の不安を覚えるが、これはこれで正しかったのだ。なぜって、これだけで十分なストーリーを紡ぎ出せる展示が後に待っていたから。
- 作者: 豊田和二
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命を吹き込まれた展示物をもっと見てみたい
鑑賞システム「シュンポジオンへようこそ」はすごく良かった。古代ギリシャの社交場であるシュンポジオンの雰囲気が、壁いっぱいのスクリーン、ギリシャ語のセリフ、パピルスの譜から復元された音楽で再現される。
一般的な美術館や博物館の展示って、「静」なんだよね。動きがなくて、静謐で、命の宿っていないものだ。その雰囲気じたいはわりと好きな人間ではあるけれども、そういう空気は積極的につくられたものじゃない。宗教的な荘厳さを持つ宗教画の展示なら別だけど、そうでないミュージアムで静謐な空気が醸しだされている理由って、マニアックな人が、それこそキャプションのひとつもなくても楽しめるから、結果的に「倉庫」のようになってるだけだと思うんだよね。
だったら、「開かれた」、つまり多くの一般人を対象にするミュージアムはもっと動的であってもいいと思う。命を吹きこまれた展示物って、それだけで魅力的なものだと思う。
狭く深く鑑賞することで、優れた鑑賞者が育つかもしれない
ほかにも、立像と同じポーズを取る謎コーナー(ジェスチャインターフェース)とか、ヘラクレスの12の試練をプロジェクションマッピングで追うゲームなど、色々あって楽しめた。展示物は4つしかないんだけど、展示物のストーリーをしっかりと受け取った感じのする良い展示だった。
膨大な数の展示を見ることにどんな意味があるだろう?多くの展示物を浅く広く見るのは、砂を掬う行為に似ている。それよりも、自分の気になった作品を選んで、狭く深く見ることのほうが現代的なように思う。
情報はたくさんあるはずだ。キュレーターや学芸員の方が集めてきた情報は膨大なはずだ。今ならネットのバックアップもある。あとはそれをどう見せるか、どう体感させるか、だろう。気になったいくつかの作品に絞り、それが持つストーリーを深く見ていくこと。これができるなら、初心者→中級者へと進むステップが高速道路化するんじゃないか。そして、そういう狭く深いポイントがいくつかできれば、美術とか博物学の、広大な領域へのアクセス起点となるはずだ。
それは、「優れた鑑賞者を育てる」ということだと思う。以前、無印良品の本で、消費者ではなく新しい時代の生活者を育てる、というアイデアがあったが、あれに近いことが可能になるんじゃないだろうか。
- 作者: 深澤徳
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そうした、興味はあるけど、いくつも展覧会をもったいなく消費してしまっている僕みたいな人間を、高速道路に乗せてくれるような、そんな可能性を感じさせてくれる展示だった。