20年前にもあった「維新の会」

相変わらず維新の会がお茶の間を騒がせているけど、20年以上前にも「維新の会」があったことを覚えている人は少ない。……まあ、僕はまだ小学校に入っていなかった頃の話だけども。

大前研一 敗戦記

大前研一 敗戦記

強者の敗北本は珍しい

 平成維新の会を立ち上げたのは元マッキンゼー大前研一。僕は正直、あんまり好きじゃない。コンサルタントにとっては神様で、全方位に最強クラスの発言能力をもつモンスターみたいな感じかなあ。洞察には感嘆するし、ユダヤの手先とか言われても絶対に折れないところはすごいと思っている。でも、「強者の論理」をためらいなく振りかざす人だし、いかに自分が成功してきたかを押しつけがましく話す人っていうのは、距離を置きたいタイプなので。
 にも関わらずこの本を手に取ったのは、そんな大前さんが、自らの敗北を語る本を出していたと知ったから。勝者が語る言葉に耳を傾ける意味があるとすればそれは、なぜ勝利したのか?であって、なぜ敗北したのか?とワンセットなはずの問いなんだよね。どういう状況ならその能力やふるまいが有効で、どういう状況では有効でないのか?というのは常に念頭に置いておかないとなあ。
 だけどまあ、敗北の理由は、政治とその周辺のシステムがもうどうしようもなく、各々組織の自己存続のために廻ってしまっているからで、その辺は今も根本的に変わってない。

あんたがなぜ滑稽なのかというとね、

大前さんの選挙応援をした加山雄三さんの言葉は慧眼だ。

あんたがなぜ滑稽なのかというとね、全部一人でやろうとしているからだ。明治維新を見なよ。このまま行ったら日本は欧米列強の植民地になる、大変になるという共通認識があった。その危機感が皆にあって、皆がそれぞれの思いで、尊皇だ、いや攘夷だ、いや開国だと百家争鳴した。百家争鳴したけれど、そういう意見の違いを乗り越えて、このままいったら日本は植民地になるという危機意識をバネに、力をあわせてやりとげた。それを後の人が『明治維新』と呼んだだけだ。

 明治維新という言葉がいつどういう経緯で生まれたかなんて知らないし、ここは大前さんの全部自前で用意しようとする姿勢が批判されているところだけれども、やっぱり日本人に「共通認識」があった、というところがキーだと思っている。
 大前さんの平成維新の会も、橋下さんの日本維新の会も、「維新」と言っているものの、それが明治維新のように、共通認識の上に立っているものじゃないっていうところが、敗北の原因のように思う。
 でも、それもアタリマエの話で、「日本が植民地になっちゃうかも!」っていう危機感をベースに共通認識つくるのは多分そんなに難しくなくて、ストーリーとしてすごくわかりやすい。今はそれほどわかりやすい+危機感を日本人が共通して感じられるストーリーがない。今どき大きな物語なんて流行りませんよね、と。

「維新」はトップダウンでは成立しない

 だから、大前さんにせよ、橋下さんにせよ、中央集権→地方分権の流れは時代の流れに沿ってると思うよ。なのに、それを進めるときのアプローチが、どうして一極集中:トップダウンになっちゃうのかがよくわからない。「維新の会」をつくっても、結局それを自分の意思を実現するための道具みたいに扱ってるんじゃないかな。
 対比してみるなら、同じくらいの規模ってことで、例えば「みんなの党*1なんかは渡辺さんの意見を拡張するツールとして党が機能しているわけじゃない。最近だと電力自由化だとか、議員定数だとか、そういうを相当積極的に法案提出をしているみたいで、議員1人あたりの法案提出数は100%を越えるらしい*2。これって単純に考えて、1人が1法案以上提出してるってことで、完全なるトップダウンじゃなくて、一人一人がちゃんと議員として「機能」しているってことでしょ。維新の会もなんか俗にいうカジノ法案とか、経済よりの法案を中心に出してるみたいだけど、人数比で言ったら微々たるもので。まあこの辺、一人一人がどれくらい議員として機能しているか、は時間をかければエビデンスは集まると思う。やらないけど。
 なんか維新の会を批判するみたいな流れになってしまったけど、言いたいのはそういうことよりも、「維新」のアプローチの方法について。大きな物語から個別の小さな物語へ、トップダウンからボトムアップへという流れのなかで、共同の物語と強力なリーダーシップを持った人にみんながついていくっていうアプローチは、日本では(ゆくゆくは世界でも?)もう難しいんじゃないか。
 大前さんも、維新の会として政局を握っていたら、結局、現代の維新の会のように「大前さんとその他大勢」になっていただろうと思う。大前さんの政策はたぶん「正しい」ことが多いんだろうけど、全体でみたら効率悪いし、法案は出せてもなかなか通らないだろうし、大前さんがいなくなればそれで終わり、だったに違いない。それは、やっぱり加山雄三さんの言うように、「維新」じゃないだろうなあ。

*1:英語だとyour partyなんだ。まあ、our partyでは困るよね。

*2:これとか→http://ameblo.jp/xunbee/entry-11377301059.html 期間とソースはよくわからないですが