対称性の復活
ついにカイエ・ソバージュ最終巻まで辿り着いた。1〜4巻まで読んできた身としては、こんなにわかりやすいものはない、という感じですらすら読める。
- 作者: 中沢新一
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2004/02/11
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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結局、対称性のある思考の働いていた現生人類も、基本的には「人間は人間で、動物は動物」と考えていたはずだ。ただ、特定のタイミング、例えば祭りや儀式のタイミングで「人間は動物になるし、動物は人間になる」と考えたということだ。だから、その思考のスイッチングができるということで、各種儀式はそのスイッチであったということ。
だから、例えばビジネスが二項対立のうち「Aは非Aでない」の思考で動いているのはアタリマエで、しかし社会のなかで「Aは非Aでもある」へのスイッチとなるイベントが失われてしまったことが問題となる。この手の話でいつも思い出すのは、岡本太郎が上級生からイジメられていたときの話。上級生は彼を見ると、狐の仮面をかぶり追いかけてくるらしい。あの岡本太郎でも当時は怖く感じたらしいが、後に思い返してみると、あれは通過儀礼であり、しかもそうした儀礼を自分のほうから引き寄せていたのだ、と語っていた。まあ、正直、メンタル強いっすね、としか思わないが、例えば岡本太郎の経験は確かに「イベント」足りえると思う。「仮面」というものは文化人類学において、まさに「Aは非Aになる」を体現しているものなので。
カイエ・ソバージュを通して、1つだけわからなかったことは、失われてしまった思考様式「神話」が現代においてなぜ重要なのか?というポイントだ。中沢さんのいう「神話」とは、世界の成り立ちを解説したりするストーリーという意味ではなく、対立する項目を、つなげて、ひっくり返す思考方法論のこと。一貫した主張は「神話を現代に取り戻さなければならない」。
しかし人間が非対称の非を悟り、人間と動物との間に対称性を回復していく努力を行うときにだけ、世界にはふたたび交通と流動が取り戻されるだろう。このように語る知性ははたして無力なのだろうか。それとも、それを現代に鍛え上げていくことの中から、世界を覆う圧倒的な非対称を内側から解体していく知恵が生まれるのだろうか。
というのは「緑の資本論」からの抜粋なんだけれども、これ、すごい「共感」はできるんだよ。でも、「非対称」に覆われた世界で生きる人間としては、「非対称」のロジックで「対称性」が有効なことを語らないといけないと思っている。「未開」の時代に、長老が神話を語る時代ではない。現代でそれをやろうとすると、物語のクリエータになるか、宗教家になるしかなくて、それって、プラクティカルなのか?と思う。
おそらく、中沢さんのイメージしているのは、多くの人が「対称性」を感覚レベルで「大事だね」というミームが少しずつ広がっていけばいいんじゃないか、と思っているのだろうけど、そういう意識って、コントロールできるものじゃない、と思っているので。むしろ、「対称性」の思考様式を現代に取り戻すことで、どういう社会が実現可能なのか?ということを真摯に(=ロジックと実例を持って、「非対称」な言葉で)示すことだと思う。
■カイエ・ソバージュ読後記録
カイエ・ソバージュ(1/5):秩序ををひっくり返す装置として
カイエ・ソバージュ(2/5):伴読部第3回『熊から王へ』
カイエ・ソバージュ(3/5):『愛と経済のロゴス』はだいたい贈与論
カイエ・ソバージュ(4/5):スピリットから神が生まれる?
カイエ・ソバージュ(5/5):対称性の復活
どの巻を読むべきか、というと、1巻目で「神話」の定義がなされるので、それを踏まえて2巻目の知的大風呂敷を感じていただければOK。以降の巻は、この手のノリに興味があれば、という感じだろうか。批判的な感想を書いてきたけど、現生人類のなかに存在した「神話」を巡る旅、としてはめちゃくちゃ面白かった。やっぱり中沢さんのナラティブな「語り」(意味が重複している?)は、ちょっと他に類を見ない。こういう「語り部」がいなければ、文化人類学の入り口は狭く閉ざされたものになってしまうだろうし、自分にとっても「かたい本」を読むときに興味を持続できないかもしれない。全書を通して、貴重な読書体験だった。
- 作者: 中沢新一
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2009/06/10
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- 作者: バルガス=リョサ,西村英一郎
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2011/10/15
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