サイタ×サイタ

Xシリーズ5作目ということで、「サイタ×サイタ」(森博嗣)読み終わり。大方の予想通り、なにも起こりませんでした(四季が出てくる、とか)。あ、ネタバレ注意です(遅い)。

しかし、小川さんファンとしては、小川さんが一人になったときに、急に内面の脆いところが露わになる空気が大変好きなんだよね。

ただ……、こんなふうに、人生って変わっていくのだな、と思ったことを覚えている。そのときの橋は、彼が亡くなった日に、一人で立って泣いた橋だ。もう、あそこへは行きたくない。行けば、きっと今でも大泣きできるだろう。

こういうとこ。「ライ麦畑で増幅して」*1のときの小川さんの空気、すべてを失ってしまった後の虚無っぽい悲しい空気がね、今でもほとんど完全に保存されていて、ふと立ち止まったときに、出てきてしまう。イメージ的には、「夜、都会、静かな雨」って感じ。
 もちろん、「彼」というのは「ライ麦」のアンプのもとの持ち主なわけですが、彼は、小川さんにとって、森ミステリィ的敬愛対象なんだろう。あ、これはジグβの感想文を書いたときに「森ミステリのパワーバランスを支配するのは、常にこの感覚だ」と書いたけど、萌絵が犀川に、加部谷が海月に抱く感情/感覚と同じ性質のものということ。
 萌絵のストーリーは対象にアプローチしていく過程だったし、加部谷のストーリーはその対象に気づくストーリーだったし(これからどうなるかは知りません)だった。そういうふうに整理すれば、小川さんのストーリーは、その対象を失ったあとの話で、まあ、安っぽく言えば、自分の気持ちとどう決着をつけてくるのか、というのを、気にして読んでいる。
 そういう観点では、前作「ムカシ×ムカシ」はかなり小川さんのコアに触れたテーマだったと思う。ただ、Xシリーズが最後の1作であることを考えると、新たな敬愛対象の存在が小川を救うわけではなさそうだ*2。椙田ともそこまでの関係になっていないし、鷹知も同じく、真鍋くんはまあ、言わずもがな。なので、結局、小川さんは一人で、決着をつけるはず。自分で答えを見つけて、ダマシダマシ生きていくことを選ぶのだろう、と思う。

*1:レタス・フライ Lettuce Fry (講談社文庫)収録

*2:あ、これはミステリーの謎解きではやってはいけないやつだ。残りのページ数から犯人を予測する、みたいな。で、結局ぜんぜん関係ない人が犯人で、フェアじゃない!と叫ぶという…