「これは川ではない、滝だ」なんてもう言わないよ絶対

「日本の川を甦らせた技師デ・レイケ」(上林好之)読了。
お雇い外国人デ・レイケの生涯と、その台詞の真実。

日本の川を甦らせた技師デ・レイケ

日本の川を甦らせた技師デ・レイケ

目次
1 オランダと日本の治水
2 日本への旅
3 はじめの大仕事
4 デ・レイケ、頭角をあらわす
5 母国からの愛
6 妻の死と休暇帰国
7 一等工師への道
8 日本定住と再婚
9 政府高官に昇進
10 日本最後の日々
11 檜舞台から天国へ


教授「この図からも分かるように、外国の河川と比較して、日本の河川は極めて勾配が大きい。これをよく物語っている話として、こういうものがある。明治時代に日本へやってきたお雇い外国人のデ・レイケは、常願寺川を見てこのように言った。
『これは川ではない。滝だ』

 これは、その手の分野の人なら聞き飽きるほど聞いたストーリーだ。でも、なんかこれ、おかしくない?確かにオランダは低平な土地だし、干拓地も広い。緩やかな川が多いことは想像に難くない。そうは言ってもデ・レイケだって技術者である。僕らが想像するような滝をデ・レイケが見たことがない、と考えるのは無理がある。
 この思いは本書を読み進めるにつれて大きくなる。この本では、主にデ・レイケがどのような人物であったかに焦点が当てられてストーリーが進行する。彼の理論的な思考、真摯な態度、発展を目指す日本を支えようとするあり方。本書を読み進め、デ・レイケのことを知れば知るほど、とてもそんなことを言う人間ではないことが理解される。9章には、とうとう『「常願寺川は滝である」といったのか』という節が登場する。結論から言えば、彼は、僕らが想像するような滝を見て、「滝があったね」と同行者に言ったのである。(ここまで反転)
 え?ネタバレだって?そんな、とんでもない!こんなのはネタバレでもなんでもない。これぐらいは僕も想像がついた。しかし、じゃあなんでデ・レイケはこんなことを言ったのか?こっちのほうがずっと興味深い問いだ。この答えを聞けば、デ・レイケがいかに優れた技術者であったかが分かる。ヒントは、「彼は滝があることを予想していたということ」「常願寺は急流であること」「その地域は比較的、河川災害を受けやすかったこと」。本書を読めば、これまでの「これは川ではない、滝だ」がいかに変な使われ方をしているか、ということに気づく。


蛇足

 現代の技術者として注目したいことは2点。ひとつは、彼の技術思想が環境と調和するような方向を目指していたこと。もうひとつは、彼のおかれたポジションは発展途上の日本に技術の基礎を与えるものであったところである。すなわち、本書は技術移転・国際協力の視点で読んでも得るものが多い。