他人といると戦場

 待ち合わせには早めに行くのが好きだ。「時間がもったいないと思わないか」というようなことを言われるのであるが、どうもそういった問題ではないみたいだ。
 僕は基本的に「余裕のない人間」である。余裕があるように見えるときは、わざわざ余裕が持てるように前もって頑張っているときであって、それはつまり、特に余裕がないときなのである。
 こういう人間だから、誰かと会うと、周りの状況とかは、いまいち把握できなくなる。これは、その「誰か」が重要な人かそうでないかには依らない。相手と向かい合わなければいけないという義務感みたいなものすら感じる。
 そういう意味で、人と会っているときは「戦闘態勢」なのである。だから、同じ場所にいても、「相手がいる空間」と「相手がいない空間」ではぜんぜん違うものに感じている。
 たぶん、誰でも多かれ少なかれ、「相手がいる空間」と「相手がいない空間」とは違うものに感じているのだろう。それが人一倍強いと思っていただければ。
 そして、僕は「平和な」、つまり他人の干渉のない世界がわりと好きで、そこが「戦場」になる前に楽しんでおきたい、というような思考が働くようなのである。
 例えば、普段は混雑する駅前だが、早朝に行くと、虚ろで、澄んでいるような印象を受ける。まだ始まっていない空間の素敵さ。あれに近い。同じことが、「相手がいる空間」と比較できる「相手がいない空間」でも起こっている。
 「他人といると戦場」というのも申し訳ないのだが、そういう性格なのである。