生命の川

「生命の川」(サンドラ・ポステル,ブライアン・リクター)読了。
河川環境評価の切り口をどこに持ってくるか?

生命の川

生命の川

目次
第1章 川はどこへ消えたのか?
第2章 河川にはどれだけの量の水が必要か?
第3章 政策決定の道具箱
第4章 川の現実
第5章 積み木法(BBM法)に用いるブロック
第6章 エピローグ 私たちは地球の河川を救うことができるか?

 河川環境を復元するにはどうすればよいのか?この問いについて、90年代頃に大きなパラダイムシフトがあったわけだけど、どうも広く知れ渡っていることでもないようだ。一言で言えば、河川生態学者Richard E. Sparksの述べたように、

一種あるいはごく限られた数の生物種に合わせて流況を最適化するより、それまでその川に生息する種全体を維持してきた、自然の流況に近づけるほうが望ましい。

ということである。訳者(辻本哲郎)のあとがきでは、もう少し具体的に書いてある。

これらは、はたしてほんとうに河川環境を守ることになってきたのであろうか。すべて対症療法に過ぎないような気がする。もちろん、カワラノギクを絶滅させない努力は大切であるし、その努力なしには確保できない守るべきものがあるのは事実としても、その生息環境を保つために、大量の土砂を毎年運んで継続的に供給し続けるなどは、決して本質的な解決になっていないことに多くの人は気がついていたはずである。

 とまあ、こういうこと。環境の評価コストを下げるための「指標種」という概念や、保全活動のシンボルとなるような「象徴種」の概念は便利だが、それらは便利であるだけで、本質を捉えきれていないことに気がついていなければならない。
 じゃあ、本質的な解決はどの辺にあるかと言うと、それはもはや「水質の改善」だけではない。当然のことながら水質も大切な指標のひとつだけど、あくまでもひとつに過ぎない。去年の夏に印象的なニュースがあった。
全国河川・水質ワースト5位の鶴見川! 信じる? 信じない? - PJnews
水質ワースト5位の鶴見川に行ってみたら、魚は泳いでるし、よどみもなく、透明度も高かった、という話で、科学的かと言われるとたぶん違う。しかし、これは要するに河川の環境=水質を気にすればいいという状況ではなくなった、ということを示している。発展途上国では、人口は増えるわ、工場は増えるわで、水質の問題は大きい。しかし、河川が本来の機能を取り戻すためには、良い水質だけでは足りない。
 じゃあほかに何が大切なの?というと、本書が提示したのは「リザーブ」という考え方。つまり、河川の流量があらかじめどこにどれだけ配分されているかが決まっている、という考え方である。もちろん、この中にはいわゆる「環境用水」を取り入れる。これからの河川環境のキーワードは「流量」だ、というわけである。
 興味深い例としては、堤体を遡上するエビの話があった。ある種のエビは落差を見つけると、陸に上がって遡上する習性があるらしい。そのため、魚道があったとしても、堤体を水が越流していなければ、エビはそれ以上遡上しなくなってしまう、というものである。この場合、環境用水を増加させ、越流させれば問題が解決するということであり、事実そのようになった。
 このように、河川環境の復元は、まず水質、次に流量、最近は微地形なども考慮されるようになってきている。さらに先の問題としては、復元目標を設定できるだけの情報が足りないときにどうするか?というものがあるように思う。