伴読部 第5回 『ヴァギナ 女性器の文化史』
それでも、何世紀ものあいだ、世界中の女性たちが力を振るうためにスカートをまくりあげてきたことは、紛れもない事実だ。
- 作者: キャサリン・ブラックリッジ,藤田真利子
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2011/02/04
- メディア: 文庫
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ヴァギナと神話
ここまでの伴読部を通して、赤亀さんは「神話」というフレームワークにとても興味を持っている、ように少なくとも僕には見えた。「神話」は、人類がいろいろなものをどういうふうに捉えてきたのか、を解き明かすための強力なツールになっているらしくて、第4回の「熊から王へ」の回でも中沢新一が多用していた方法でもある。
昔の人がヴァギナをどう捉えていたか、というのはなかなか興味のあるところ。最もわかりやすい捉え方をするのであれば、つまり「熊から王へ」のように神話が環境収容力の大切さを説こうとしていると解釈するのであれば、女性性器に関する神話は生殖力コントロールの大切さにほとんど直結する。その象徴としてのヴァギナ、という捉え方はかなりしっくりくる。ペニスではなくてヴァギナなのももちろんのこと、子供が生まれてくる場所であればこそだ。「男性と子孫の誕生を結びつける明確な証拠がなかったからだ」との棄却はさすがに勇み足と思うけど。
神話の名残
その上で、原初の「ヴァギナに宿る力」というのを僕らはもう感じ取れず、現代の日常においてはすべてがタブーとして処理されているのだろうか?たぶんそんなことはなく、当時のヴァギナが持つ力と連続性のあるなにかは、まだ現代に残っていると思う。
最も近い感覚は「赤ん坊」ではないか。緊迫した空間でふと赤ん坊が泣き出す。母親があやし、その場がふっと和む。そういった状況は、ヴァギナが持っていたであろう、新しい生命の可能性と地続きではないのか。
例えばそこで、赤ん坊を抱く母親に対して「うるさい」などと叱責することにはかなり抵抗があるだろう。赤ん坊は次の世代を構成する大切な存在であって、その存在を許容しないような社会はナチュラルセレクションに従って淘汰される。ここで叱責をすることの心理的抵抗感が、ちょうどヴァギナの持つ、魔を払う力に近いものと想像する。
また、ロマの男にとって、最も大きな恥は、女のスカートを頭にかぶせられることだという。女性にこれをされると、その男は清浄ではなくなり、社会的に抹殺される。
社会的に抹殺……
ヴァギナこわい
それともうひとつ別に、ヴァギナの力を感じるケースがあって、やっぱりあの空間はちょっと怖いよね、という感覚なのだけど。なんかあんまり見たくないような気がして、まあそういう映像とかでもモザイクになったりしているのは案外規制とかではなくて怖いからではないか、みたいな。というのは頷いていただける方とそうでない方とちょっと何言ってるかわからないですねーな方がいると思うんだけど、神話でもけっこうヴァギナを怖がるものは多いそうで。
モチーフとして神話に現れるのは歯の生えたヴァギナ(ヴァギナ・デンタタ)。なるほど。僕のなかでのイメージは完全にカンディルかヤツメウナギだけどたぶんググらないほうがいいと思う。根底にあるのが男性の去勢不安だ、というふうに断じてしまうのはたぶんそんなに難しくないんだけど、それもなんかフロイトの夢分析がぜんぶ性的抑圧に辿りつくみたいな粗雑な議論のような気がする。
どうもこの本では「なぜヴァギナに歯が生えているのか?」に一定の結論を出しているようには見えない(もちろんそれが別に悪いわけでもなく、必ずひとつの結論に達するとも思えないけど)。男性がペニスをフラジャイルなものと思っているのか、女性の飽くなき性的感覚に対する恐怖心なのか、生物としての資源競争なのか、それとも?
古代ギリシャのへタイラと呼ばれた有名な高級娼婦たちは、粘土でできたペニスをヴァギナの筋肉で割ることができたと伝えられている。
まんじゅうこわいメソッド。
赤亀さん:http://d.hatena.ne.jp/chigui/20120521/1337549024
なむさん:http://d.hatena.ne.jp/numberock/20120520/1337521269