ウナギ 大回遊の謎

「ウナギ 大回遊の謎」(塚本 勝巳)読了。
ウナギの産卵場探しはトレジャーハンターのよう。

ウナギ 大回遊の謎 (PHPサイエンス・ワールド新書)

ウナギ 大回遊の謎 (PHPサイエンス・ワールド新書)

 ウナギと言うと、食べるウナギよりも昔飼っていたウナギのことを真っ先に思い出す。水槽をお引っ越しした翌朝、ウナギは哀れにも床の上に放り出されていた。やってしまった! 魚が水槽から飛び出すのはよくあることで、その場合、すぐに戻さない限り、まず間違いなくご臨終になっている。しかし皮膚呼吸のできるウナギならば、と近づいて唖然とした。カピカピに干からびているのだ。さすがにこれでは助かるまい。遺体処理をしようとしたところ……こいつ…動くぞ! ほぼ半日床の上にいたはずなのにまだ生きている。ウナギの生命力というのは半端ではないのである。
 しかも、その一生はマリアナ海嶺で生まれ、回遊した挙句に川を遡るのだから恐れ入ってしまう。しかしこのマリアナ海嶺の産卵場所も、特定されたのはつい2006年のこと。本書は、その産卵場所を発見したチームの研究者による、いかに産卵場所を見つけてきたか、というお話である。

ウナギの産卵場所をどーやって見つけるか?

 これがメチャクチャ地道でおもしろかった。ウナギは幼生(稚魚よりも前のステージらしい)の段階ではレプトケファルスと言う。平べったく透明で、赤血球もない。去年東大でやってた鰻博覧会では、レプトケファルスがたくさん見れて感動モノだったなあ。

 で、産卵場をどうやって見つけるかというと、1,海でグリッド状に何点かでサンプリング。2,サイズの小さい個体が取れた方向に進む……以上。これは地道。もちろん、ある程度海流などから予測はつけられるものの、基本的にはこれを繰り返していくしかない。沖縄付近で60mmのレプトケファルスが見つかったのが1967年。そこから台湾、フィリピン、グアムと移動し、40年近い歳月をかけて、ウナギの産卵場は発見されたということだ。

産卵場を特定する

 産卵場の特定の仕方がまたおもしろい。産卵というのは、ある場所、ある時間で行われるものであるから、場所と時間の両方を定めなければいけない。
 場所をと言っても3次元だから、地図上のどこかというだけじゃなくて、深さとしてどこか、ということや、地形上のどのポイントなのか、どれくらい海山から離れているか、というところまで特定しなければ産卵場所はわからない。時間と言っても、そもそも何月頃に産卵するのかすらわからない。どんなタイミングで産卵するのかもわからない。こういう、なにもわからないところから色々仮説を立て、最終的に産卵場をつきとめるところは、まさに研究の醍醐味だと思う。
 仮説を立てていく過程で、フィリピン海プレートと海山の3D地図が出てくるのだが、確かに自分がウナギならここで産卵するよなーと納得し、感嘆させられた。研究の追体験という意味では、金沢城ヒキガエルに匹敵する名著ではないか。

漁業資源管理とか

 出版が今年の6月末だから、ウナギの資源管理が世間を賑わす少し前のことだ。この本はアカデミックの色合いが強いから、基本的には好奇心で読めるけど、漁業資源管理は日本の課題。
 漁業資源管理と言えばノルウェーとか、すでにロールモデルがあるはずで、なぜ実行に移せていないのか、すごく気になっている。日本の一次産業戦略が全般的にイマイチなのはわかっている。ただ、利権が絡みまくっってる農業とか、ゴールが設定しにくい林業とかが難航するのはわかるけど、漁業資源に関しては方向性が明確だし、養殖技術の革新も目覚ましいわけだから、スムーズに行きそうな気がするんだけどなあ。意外と外食産業が厄介なんだろうか。この辺は少し調べてみたい。