河川計画論

「河川計画論―潜在自然概念の展開」(玉井信行 編)再読。
「潜在自然概念」とはなにか。

河川計画論―潜在自然概念の展開

河川計画論―潜在自然概念の展開

目次
第 I 部 総論編
 第1章 潜在自然概念の河川計画への展開(玉井信行)
第 II 部 治水編
 第2章 計画洪水流量(玉井信行)
 第3章 安全な河道の設計と洪水被害軽減策の動向(池内幸司・玉井信行)
 第4章 自然の不確定性と河川計画(玉井信行)
第 III 部 水資源編
 第5章 流域水循環の保全(玉井信行)
 第6章 地球環境と日本の水資源(小池俊雄)
第 IV 部 生態/流域環境編
 第7章 水界の生態解析の基礎(浅枝隆)
 第8章 生息域の健全性に関わる評価(玉井信行)
 第9章 物質収支と水域の水質(浅枝隆・黄光偉)
 第10章 都市環境の機能回復(黄光偉・白川直樹・小池俊雄)
 第11章 良好な河川環境の保全・復元を目指した河川計画の事例(池内幸司)
第 V 部 総合管理編
 第12章 経済評価(松崎浩憲・白川直樹)
 第13章 住民参加と合意形成(玉井信行・松崎浩憲)

 植生学には、「潜在自然植生」という考え方がある。これは、「一切の人間の干渉を停止したと仮定したとき、現状の立地気候が支持し得る植生のこと(wikipedia:潜在自然植生)。
 これにインスパイヤされてできたのが「今日的潜在自然」で、ようは、現時点で人間の干渉を停止したと仮定したとき、そこに成立する自然を意味する。つまり、原始的な自然ではない。これまでの人間の影響は無視せず、これらが存在するのを前提とし、それがある時点で停止したら、どのような自然が成り立つか、を考える。

 このような考え方をしたところから、本気で河川環境を復元しようとする筆者の気概がうかがえる。というのも、環境修復を真剣に考えれば、最も難しいことのひとつがゴールの設定であることに気づくからだ。とりあえず木が生えていれば良いのか、ホタルが見られるようになれば良いのか、多様性種数が高ければ良いのか、外来種を根絶させれば良いのか。生態学的な側面だけでも容易ではない。実際はこれらに加え、景観、教育、地域社会・・・もはやなにがなんだかわからなくなってしまう。

 だからと言って、「原始のあるべき自然に戻すべきだ」という主張が無意味であることは、技術的・経済的・社会的側面から明らか。現実的な目標を設定しなければ、より良い環境の復元は為し得ない。「潜在自然植生」は環境復元の目標を設定するための指針となるはず。

 本書が画期的である点は、治水はもちろん、水資源管理、都市環境、流域環境、地球環境、生態学、経済評価といった幅広い視点からまとめられているところ。僕らの世代では実感しにくいけど、昔は各分野が独立しており、統合には大きなハードルがあったんじゃないかな。研究の寄せ集めだと言う人もいるみたいだけど、問題は複雑化し、ひとつの分野のみで解決できるものはもはや少ない。

関連:自然的攪乱・人為的インパクトと河川生態系 - けれっぷ彗星