生態系を蘇らせる

「生態系を蘇らせる」(鷲谷いづみ)読了。
生態学と、その概念の重要性。

生態系を蘇らせる (NHKブックス)

生態系を蘇らせる (NHKブックス)

目次
序章 今なぜ、生態系か
第1章 「ヒトと生態系の関係史」から学ぶ
第2章 生態系観の変遷
第3章 進化する生態系
第4章 撹乱と再生の場としての生態系
第5章 健全な生態系とは
第6章 巨大ダムと生態系管理
第7章 生態系をどう復元するか
第8章 生態系を蘇らせる「協働」
終章 生態系が切りひらく未来

 久しぶりに生態学っぽい本を。と思って読んだのだけど、いかんせん8年前の本。だいたいは大学で聞いたような話だった。むしろ学部レベルの参考書としていいのかもしれない。生態系についての基本的な考え方が分かりやすく解説されている。
 生態学の概念は、説明だけ聴くと「うん。そういう捉え方があるんだね。で、それがどうしたの?」というものが結構多いような気がする。よって、その概念のどこが画期的/重要/すごいのかを説明できなければ、ほとんど自己満足みたいなものだ。自己満足で済ませるならいいのかもしれないけど、環境保全という目標を念頭に置いているなら、そんなことは言っていられない。
 例を挙げよう。パッチ・ダイナミクス説というものがある。これは、「植物群落は、決まった種の安定したくみあわせからなるようなものではなく、遷移段階の異なる小区間がモザイク状に存在するように成立している」という考え方だ。「うん。そういう捉え方があるんだね。で、それがどうしたの?」
 この考え方がすごいのは、それまでは、自然を「単一で安定しており、調和を保っている存在」として捉えるような考え方が支配的だったからだ。高校の生物で習う「極相林」の考え方を想像してもらうとよい。荒地に雑草が侵入し、陽樹が芽生え、最終的に陰樹が優勢となり、安定する。そう習ったと思う。
 この捉え方は間違いではないし、自然界を理解する上で重要な考え方だ。しかし、実際の森はずっと安定した状態にあるわけではなく、枯死や倒木などによってギャップが生じる。そして、そこから再び遷移がスタートする。
 つまり、パッチ・ダイナミクス説によって、「自然は、単一で安定しており、調和を保っている」という神話が切り崩された。自然は安定しているように見えるが、実際はずっと動的(ダイナミック)であって、変動しながらみかけの安定を保っている。こういうふうに、より現実に近いかたちで自然を認識できるようになったのである。
 長くなってしまった。概念の重要性を平易に説明できるところは、さすが生態学の権威だ、と思う。生態系とそれを説明するための概念、そして何よりもその概念の重要性を認識したいなら、その辺の変な環境本よりも、鷲谷いづみの本を読むべきだろう。