天然アユが育つ川

「天然アユが育つ川」(高橋勇夫)読了。
アユがいる川よりも、アユが育つ川でなくては。

天然アユが育つ川

天然アユが育つ川

目次
第一章 アユの一生
「春」
遡上するアユが小さくなってきた
魚を上らせない魚道
お金をかけなくても魚は上る-小わざ魚道
アユの泳ぐ力は強いって、本当?
温暖化で増える陸封アユ
天竜川のシラスアユ

「夏」
損得勘定で決まる、なわばりの大きさ
なわばりアユはなぜ黄色い?
洪水とアユ
天然アユと人工アユの群れの作り方
川に潜ってカワウとアユについて考えた
「うちのアユが一番うまい」について考える

「秋」
アユの産卵観察記
データと感性-アユの産卵場を作る
産卵にも多様な環境が必要
アユの婚姻色
海にたどり着けない仔アユ
感動の「なれ鮨」

「冬」
アユの子どもはなぜ海にいる?
アユの東高西低を科学する
越年アユ


第二章
変わりゆく川
アユが干上がる
生き物からの危険信号
川虫に見る生態バランスの崩れ
増加する異常繁殖
川で見かける変なもの
ほ場整備にみる環境保全の難しさ
ダムについて考える
桜の咲かない春
好きな川


第三章
アユと漁協
種苗放流、その効果とリスク
放流しているのに、なぜ釣れない?
天然アユが増えた川
ダムによる環境悪化に立ち向かう-天竜川漁協
環境先進河川-矢作川
天然アユが増える日野川
小さな友釣り大会
放流病
二つの公益のはざまで-アユ漁の過去と未来


第四章
自然の恵みを未来へ
生態系のサービス-経済評価では見えないもの
アユを指標種にする理由
無農薬野菜と天然アユ
天然アユと農業の連携
環境を直す技術
みんなでやろう!産卵場造成
水力発電とアユの共存の道をさぐる
子らよ、川に潜って遊べ-清流新荘川
アユとの共存が安全につながる-武庫川
産卵保護から見えてくる自然との付き合い方
ふるさとを守る
天然アユは誰のもの?
川を大切にする仕組み
百年鮎構想
天然アユを守りたい

 著者による前作「ここまでわかったアユの本―変化する川と鮎、天然アユはどこにいる?」の表紙には、一匹のアユが大きく写されていた。一方、本書の表紙を飾るのは、アユの群れ、浮石の並ぶ河床、そして輝く水面。これは、著者の問題意識の向かう先を指し示している。まず生物に興味を持ち、それを中心に視野を拡大し、環境問題を考えるということ。このスタンスは僕と近く、とても共感できる。
 僕としては、アユはあまり馴染み深くない魚だ。釣りよりはガサガサ(網)で魚捕りをするのが好きだったので*1、そうそうアユにお目にかかることはない。万が一つかまえても、即リリース。うっかり漁協の人に見つかってしまうと、一大事だからである。「なにとってんだい?」「いやあ、雑魚ですよ雑魚」が成立しなくなる。
 水槽の中の魚も美しいのだが、やはり本当の美しさは、川を泳ぐときに発揮される。「個体としての生物の魅力」と「環境の構成要素としての生物の魅力」は2つの極のようなもので、アユは断然、後者よりである。
 これは要するに、「泳ぐ」という行為が「流れ」という物理的状況と密接に関わっていて、ある種の「景観」のようなものを形成しているからだろう。アユは川の中か、あるいは口の中に限る。
 こういう感情的よりな話でも、やはり養殖アユではなく、天然アユでなければ、という結論に至る。養殖アユは「ゴンズイ玉」のように群れて泳ぐ。あれは本当にアユなのか?
 もちろん、本書の主張はもっと現実的な側面をついている。基本的に、その河川に適応できるのは天然アユなのである。養殖アユは冷水病をもたらすし、定着率も低い。援護射撃としては、アユの放流が数多くの国内移入種を導入し*2、生態系を歪めていることも付け加えておきたい。
 そうそう、アユ本としては、「アユ学」を読もうかこの本を読むかで迷ったのだけど、本書の方が環境問題の現場に近いと思ったので、こちらを選んだ。「アユ学」は保全遺伝学に強いようなので、こっちもいずれ読みたい。

*1:最近はしてないなあ……

*2:例えば、カワムツ、タモロコ、ムギツク、ケタバスとかの分布拡大