なぜ定量的評価が必要なのか?[生物多様性オフセット]

 先日、国連大学で行われたシンポジウム「生物多様性オフセットと生態適応」の動画がアップされた。個別の生物多様性オフセットの事例とかが聞けて、興味深い。
2010 International Symposium on Biodiversity Offset and Ecosystem Adaptation

 生物多様性オフセットというのは、開発で失われた生態系を定量化して、失われた分を代償的な生態系として復元させる、というものである。言ってしまえば、カーボンオフセットの生態系バージョンというところだろうか。
 従来から「ミティゲーション」という考え方はあった。ミティゲーションは「開発による環境への悪影響を緩和すること」を指し、

1.回避:ある行為をしないことで影響を避ける
2.最小化:ある行為とその実施に当たり規模や程度を制限して影響を最小化する
3.修正・修復:影響を受ける環境の修復、回復、復元により影響を矯正する
4.軽減:ある行為の実施期間中、繰り返しの保護やメンテナンスで影響を軽減または除去する
5.代償:代替資源や環境を置き換えて提供して影響の代償措置を行う。
EICネットより

の5つがある。ただ、この5つ目「代償」はあまり社会的に浸透していない。この「代償」をクローズアップした概念が「生物多様性オフセット」ということになる。
 で、なぜ浸透していないかというと、定量化が困難だから。例えば、ある河川を直線化したとして、その場所で失われた生態系はどれくらいですか?なんて、どうやって計ればよいのか。
 上の動画のトップバッターである田中章氏はHEP (Habitat Evaluation Procedure:ハビタット評価手続き)というシステムを利用して定量化を進めようとしている。基本的には、生態系の価値を「質」×「空間」×「時間」で算出するというものである。
 このようなやり方は生態系というものを単純化しすぎている、という指摘はもっともなものだ。ある土地に生態系を独立したものだと捉えているわけで、その土地の生態系が他の土地の生態系に与える影響を考慮できないのだから*1
 とは言え、生態系を完全に定量的に評価するのなんて、すぐできるようなことでもないから、不完全でも始めるしかない。評価方法はまあ、とりあえずたたき台でも仕方ない。現場に適用していくうちに、問題点も見えてくると思うので。順応的管理っぽくやるしかない。
 生態系は複雑で、こんな手法では本来的な生物多様性の重要性は認識できない、という指摘は正しい。しかし、定量的評価手法を用いなければ、社会(とりわけ大きな影響力を持つ経済社会)を納得させられるようにはならず、実効的な枠組みをつくることはできない

 もうひとつのテーマである「生態適応」はまた別のエントリで考えることにします。

*1:専門ではないので、もしかしたらできるのかも?誰か知っていたら教えてください