ダム撤去

「ダム撤去」(科学・経済・環境のためのハインツセンター)読了。
ダム撤去先進国アメリカは、いかに「決定」してきたのか?

ダム撤去

ダム撤去

目次
本書の概要
第1章 本書の背景について
第2章 ダム撤去の決定
第3章 ダム撤去の物理的な結果
第4章 ダム撤去による生物学的結果
第5章 経済学とダム撤去
第6章 ダム撤去の社会的側面
第7章 ダム撤去に影響するアメリカの法律
解説 日本版「ダム撤去」への道すじ
解説 ダムの一生と生態学

 日本では今月、荒瀬ダムの撤去が決まった*1。一方で、アメリカでのダム撤去は、500件以上にも及ぶという。アメリカにおけるダム撤去状況についてを見ると、撤去されたダムのうち約9割が15m以下のダム*2。15m以上のものはダムじゃなくね?と思う方もいるかもしれないけれど、それは日本とアメリカの"dam"の定義の違いで、アメリカでは流れを遮るものはすべてダムとするらしい。

対象は小規模ダム

 というわけで、本書で論じられる「ダム」はあくまでも「小規模ダム」についてである。なぜ小規模ダムかというと、

世界的に考えてみた時、小規模ダムの数は何百万にも及び、大型のダムよりはるかに多く存在するからである。

ということ。小規模ダムってどれくらい?っていう話だが、本書の定義に従うと、貯水量1200〜120000立方メートルが小規模ダムになるらしい。
 日本で考えると、ふつうに名前が知られているようなダムは、オーダーが120000よりも2つか3つくらい大きくなるので、イメージとしては「ため池」くらいが妥当だろうか*3
ほかに、小規模ダムを対象とする理由として、

小規模ダムはまた、地元の人々や地方行政、団体組織などがその撤去に関する判定を議論、討議し得るような領域内にある。

が挙げられている。確かに日本でも、八ッ場ダムの問題は、地元の人だけで討議し得る問題ではなかった。これがもし「ため池」レベルのものであれば、ステークホルダーの数も少ないし、なんとか合意に至ることのできるレベルだったかもしれない。

「何もしない」という選択はない

 新規で構造物を造るときは、「何もしない」という選択があり得る。しかし、1度造ってしまったら、「維持管理する」or「撤去する」の2通りしかない。
 「何もしない」というのはリスクの極めて高い選択だ。本書で指摘されていたように、ダム撤去の決め手となるのは「決壊による洪水のリスクを抱え続けるよりは撤去したほうがマシ」である。
 訴訟大国ならでは、ということもある。アメリカは、堤防が決壊すると維持管理する側が訴えられるくらいだから。高い維持管理費を払ってリスクをとるなら、撤去してしたほうが良い、という考えで撤去することが多いようだ。

日本での展開可能性

 ……を考えるべきところだが、あまりにも状況が違う。個人がダム所有しちゃってるとことか、廃棄物を貯めるためにダム造ってるとことか、上の訴訟に関してもそうである。
 地形的にも、明らかに日本のほうが急峻なため、日本のほうが「水を貯める」ことの必然性が大きい。治水・利水ともに。
 では、アメリカの事例から学ぶべきことはなにか?
 それは、「ダム撤去で具体的にどのような影響がでるか」ではない。そんなものはケースバイケースであり、極端な話、ひとつ隣の水系でさえ異なるだろう。
 学ぶべきは、「どのように意思決定を行なったか」であり「どのように撤去後の評価を行なったか」だろう。今後数十年は、ダム撤去か、維持管理か、という判断をしなければならない局面がたくさん出てくる。そのとき、「どうやって決断を下すか」が常に問題だ。そういった視点で本書を読むと、とても参考になる。

*1:というか二転三転していて、まだどうなるか分からないが、詳しい経緯はウィキペディアhttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8D%92%E7%80%AC%E3%83%80%E3%83%A0

*2:「不詳」は除いて

*3:日本では高さ15m未満のものをため池、それ以上をダムと呼ぶ