川のHの条件

「川のHの条件−陸水生態学からの提言」読了。
魚の「すむ」川と「すめる」川との違い。

川のHの条件―陸水生態学からの提言

川のHの条件―陸水生態学からの提言

 もちろん、HはHabitatのHである。決していかがわしい本ではない。念のため。
 魚が「すめる」川と、魚が「すむ」川は違う。1997年の河川法改正前後から、多自然型川づくりが始まり、魚が「すめる」川がつくられてきた。方向付けとしては間違っていないし、望ましい方向転換である。ただ、そうしてつくられてきた魚の「すめる」川というのはどういうものだろか。
 それは、河床が動かない川である。確かに魚はすめるが、礫はかみ合い、安定した環境がつくられている。
 それは、一時的に魚のいる川である。確かにアユはいるが、彼らは放流された個体であり、人が手を加えなければ姿を消してしまうのである。
 それは、多様性の低い川である。水辺林が失われ、明るく広い川は見栄えが良いが、環境は一様であり、そこで見られる生物も種類が限られる。
 このような「すめる」川の生態系は回復力・復元力・抵抗力が低い。人工構造物建造や水質事故によるインパクトから復旧するのは容易ではない。それは、「すめる」ためにしている行為が、川というシステムを考慮しない、場当たり的な対応であるからだ。放流も、多自然型護岸も、「やればよい」ものではなく、あくまでも手段である。川がどういった要素の組み合わせで、どういった因果関係で、どういった歴史的過程で、形成されているかという考慮のない手段は、魚の「すめる」川にしかならない。
 魚の「すむ」川をつくるには、そうした理解が必須になる。なぜなら、魚の「すむ」川は、自立した川だからである。すなわち、川の持つ自然の回復力によって、川の持つ本来の機能を取り戻すということである。多くの手段はそのためのサポートだ、という位置づけとなる。
 本書が出版されたのが2000年。この10年で、こうした理解は進みつつある。ただ、最近の問題は、河川管理に関わる市民団体が増えたことで、彼らがこうしたことを理解しているかどうか、というあたりかもしれない。
最後に、生物が「すむ」川を評価するための10条件を挙げておこう。

1,川が上下につらなっているか
2,細流・水路のつながりが有効か
3,冠水率の高い水辺や伏流水があるか
4,河床に大小の石があるか
5,水深に大小があるか
6,流速に大小があるか
7,水生植物があるか
8,水辺林が連続しているか
9,水面の光の当たり方はどうか
10,撹乱の頻度はどうか

すなわち、連続性・多様性・被覆性・撹乱頻度という4つの指標である。