日本の土木地理
「日本の土木地理―国土への理解と認識のために」(土木学会編)読了.
ローカルさがどんなところに表れてくるか?
- 作者: 土木学会
- 出版社/メーカー: 森北出版
- 発売日: 1974
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目次
1.土木地理学の成立
エクメーネについて,地理学の出発とその発展,土木事業・技術・工学,土木地理学成立の可能性2.地形と土木構造物
はじめに,清水トンネルと新清水トンネル,天草五橋,関門橋,青函トンネル,本州四国連絡橋3.気候と対応
はじめに,琵琶湖・淀川流域の特徴,沖縄の台風,凍上・凍害,積雪地域における除雪・排雪・融雪など4.土壌の特性とその対応:
はじめに,北海道の泥炭とその対策,関東ローム,マサ土の特性と対策,九州のシラス対策,吉野川流域の崩積土と対策5.土地利用と食料生産:
はじめに,愛知用水,有明干拓,八郎潟干拓,瀬戸内の塩田6.エネルギー獲得の地理的条件:
はじめに,国産資源「石炭」,奥只見ダム群,梓川の水力開発,エネルギー需給と火力発電,原子力発電にかける期待,地熱エネルギーの開発と利用8.国土と交通:
はじめに,新幹線鉄道への歩み,高速道路時代へ,関西国際空港9.都市:
はじめに,江戸から東京へ,東京から大東京へ,大東京から首都圏へ,変革期の東京
「日本の土木地理」のアプローチ
長大な橋梁やトンネルの長さは,それを記憶するだけでは観光ガイドの知識以上の社会性を持たない.地形のあり方,人口の分布,そこに展開される社会,その間を通過する人貨の量と質,その地域の持つ技術の水準,交通機関の経済性,災害に対する安全度などの諸要素が混然として一体となり,長大トンネルまたは橋梁という地理的一現象を現出していると認識してこそはじめて有意的である.
こういうアプローチが大切だと思うんだよね.以前、こういうことを書いた。
土木構造物を「新しいもの」として見てきた人々が、まだたくさんいる。しかしやがて、土木構造物は「昔からあったもの」と見なす人々がマジョリティになる。土木構造物を見るとき、「高層ビルを見る」ようにというよりは、「遺跡を見る」ような意見が多数派になっていく、ということだ。
経済的な観点から考えても、公共性が高くなればなるほど、土木構造物は、生態系サービスを提供する「自然」と近い存在になっていくはずで。そうなってくると、例えば人類の歴史を紐解くように、その地域の成り立ちを明らかにするように、「造る」ことの大切さに対して、「調べる」ことの大切さの比重がどんどん増えていくんじゃないかな。
そんで、しかも土木構造物というのが、すごく地域固有性の強いものであって、その土地だから適用できる技術っていうのがやっぱり存在するよね。
ローカルな思想を創る〈1〉技術にも自治がある―治水技術の伝統と近代 (人間選書)
- 作者: 大熊孝
- 出版社/メーカー: 農山漁村文化協会
- 発売日: 2004/03/01
- メディア: 単行本
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それを、どういうアプローチで考えていくか、というのはまあ、土木史とか歴史地理学とかなんだろうけど、そのままズバリ土木地理ときましたかーという感じ。まあ、たぶんこの当時の意識としては、やはり「造る」という意識なんだろうけど、それはその時代の思想をちゃんと反映しているわけで、なるほどねーという感じで読める。
江戸時代のハゲ山はなぜできたか?
とは言うものの、これはどっちかと言うと「資料」という形式が強くて。著者もインフラ関係の方々がほとんどなので、そういう形式が強くなっちゃうのもしょうがないかな。でまあ、同じ問題意識を持っていたらこっちのほうが読んでてオモシロイ。
- 作者: 小出博
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 1973
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例えば、江戸時代には森林伐採によってハゲ山が増えて、それを明治以降にお雇い外国人に指摘されて、山林を回復させていった、というのはよく言われていることだけども、本書によれば、ハゲ山の拡大はもっと激しい人為によって花崗岩マサ*1がむき出しになることが原因であるという。
「もっと激しい人為」とはなにかというと、砂鉄採取と傾斜地農業である。花崗岩地帯では、鉄の含有量は低いんだけれども、比重の大きい黒色鉱物が少ないから、良い品質の砂鉄が低コストで得られる。どちらも花崗岩地帯に立地「したがる」から、砂鉄採取と傾斜地農業は競合していて、花崗岩地帯はこの2つの人為でボロボロにされた。両者の土地利用と花崗岩地帯がほぼ一致していたというのは驚きだ。
マサ露出地帯は一旦ハゲ山になってしまうと回復しなくなる。マサは保水力が高いために冬季に霜柱が発生し融解とともに表層部分がフラッシュされる、とかまあメカニズムの細かい話はホントかどうかわからないけど、要するにハゲ山は日本全国で起きていたわけじゃなくて、花崗岩地帯で顕著であって、しかもその原因は森林伐採じゃなくて砂鉄採取と傾斜地農業ですよ、と。