ムサシトミヨの棲む川は

ムサシトミヨの生息地に行ってきた。名前の通り、武蔵の国にしか生息しないトゲウオのなかま。

珍しいいきものだ。詳しくは知らないが、野生の個体群ってここにしかいないんじゃないか?
 生息地は元荒川という河川。実は、元荒川は名前の通り、以前の荒川の流路である。Google Mapで確認するとわかるけど、現在の荒川は数100m離れて南西を並走している。
 江戸時代初期。まだ利根川と荒川が合流していたころ、元荒川は荒川から切り離された。
 ムサシトミヨみたいなトゲウオのなかまはとっても冷水性の魚で、このあたりでは湧き水のある場所にしかいない。
 もちろん、元荒川も湧き水を水源とする。地下水面が山からはみ出して出てくるタイプの湧き水ではなく、いわゆる伏流水というやつだ。つまり、地下河川のようなものが存在し、地下のつくりの影響を受けて、地表に出てくるかたちである。
 元荒川は荒川の過去の流路であった故に、湧水が供給されてきた可能性が高い。そういう意味で、元荒川は人工的な河川である。自然の理をねじ曲げてつくられた場所であるため、治水の安全度は決して高くない。

 しかし、そういう場所に、歴史のいたずらのように、極めて希少な種が保存されている。
 歴史のいたずらというのは失礼かもしれない。多くの人が保全のために努力してきたし、している。近くに建つムサシトミヨ保護センターも、もとはマス養殖の研究施設であったということだ。今ではポンプで水を汲み上げ、元荒川の流量・水質を維持している。
 そうであっても、もっと「自然の残る」地域があるだろう。そういう場所ではなく、江戸時代から大規模に改修されてきた場所に稀少種が残っているというのも、不思議な感じがする。
 本来、不思議に感じるべきところではないのかもしれない。自然と人工を対立するベクトルと捉えているから不思議に感じるのだし、自然は人間を包含するという概念に沿いきれないから違和感を感じるのだから。